全2348文字
PR

 これは内燃機関の最終進化形だな――。そう思ったのが、日産自動車が2022年7月25日に発売した新型「エクストレイル」のパワートレーンだ。日産のハイブリッドシステム第2世代「e-POWER」に、同社独自の可変圧縮比エンジン「VC(Variable Compression)ターボ」を組み合わせたものである。VCターボが国内販売車に搭載されるのはこれが初めてだ。

e-POWERにVCターボエンジンを組み合わせた新型「エクストレイル」
e-POWERにVCターボエンジンを組み合わせた新型「エクストレイル」
(写真:日産自動車)
[画像のクリックで拡大表示]

 VCターボについては、すでに約6年前にこの連載の「日産が20年かけ開発、可変圧縮比エンジンの凄さ」で取り上げているのだが、e-POWERと組み合わせるのはこれが初めてだ。そこで今回は、日産がなぜe-POWERに可変圧縮比エンジンを組み合わせたのか、その狙いを考えてみたい。

関連記事: https://business.nikkei.com/atcl/report/15/264450/102100046/

レギュラーガソリンで高圧縮比

 可変圧縮比エンジンは、文字通り圧縮比を変えられるエンジンのことである。ではなぜ圧縮比を変えたいのか。それはエンジンの効率を向上させるためだ。理論的には、エンジンの熱効率は圧縮比が高いほど高くなる。しかし、圧縮比を高くし過ぎると、ピストンが上昇している途中で混合気の温度が上昇し過ぎて、点火プラグで火をつける前に部分的な着火が発生する。これにより、エンジンには異常振動が発生する。これがノッキングである。このためレギュラーガソリンを使うポート噴射の自然吸気エンジンでは、圧縮比はせいぜい12程度にとどまる。

 しかし、実際にノッキングが起こる状況というのは、実は限られている。エンジンにかかる負荷が高い加速時などは、確かにノッキングが起こりやすいのだが、一定の速度で走っているときなどは、エンジンの負荷が低く、ノッキングは起こりにくい。だから、そうした状況ではなるべく圧縮比を高くしてエンジンの効率を上げ、ノッキングが起こりやすい状況のときだけ圧縮比を下げられれば理想的である。これまでは、そんなことはできなかったのだが、そういうエンジンの理想を初めて実現したのがVCターボである。

VCターボエンジンの仕組み。左が圧縮比14:1、右が8:1の状態。モーターでリンクの支点を動かすことでピストンの上死点をずらし、圧縮比を変える。2018年に2.0L・直列4気筒のVCターボエンジンを「インフィニティQ50」に搭載すると発表したときの説明図
VCターボエンジンの仕組み。左が圧縮比14:1、右が8:1の状態。モーターでリンクの支点を動かすことでピストンの上死点をずらし、圧縮比を変える。2018年に2.0L・直列4気筒のVCターボエンジンを「インフィニティQ50」に搭載すると発表したときの説明図
(資料:日産自動車)
[画像のクリックで拡大表示]

 日産はすでに、排気量2.0L・直列4気筒のVCターボエンジンを2018年から実用化している。このときは、3.5L・V型6気筒の自然吸気エンジンをVCターボに置き換えることで、燃費を27%向上させたと発表している。この27%という数字は、可変圧縮比だけでなく、エンジンの排気量を小さくする「ダウンサイジング」と組み合わせることにより実現している。通常のダウンサイジングターボでは、ターボにより大量の空気をシリンダー内に送り込み、多くの燃料を燃やすような状況ではノッキングが起こりやすいため、自然吸気のエンジンよりも圧縮比を下げるのが普通だ。

 レギュラーガソリンよりもノッキングが起こりにくいハイオクガソリンを使い、さらにノッキングを抑える効果のある直噴システムと組み合わせた場合でも、ダウンサイジングターボエンジンの圧縮比はせいぜい11程度にとどまる。つまり自然吸気エンジンよりも圧縮比を下げざるを得ないわけで、その分、熱効率は低下する。これに対してVCターボは、レギュラーガソリンを使うターボエンジンであるにもかかわらず、低負荷時には自然吸気エンジンよりも高い圧縮比14で動作して低燃費を確保する。一方で高出力が必要な場面では圧縮比を下げてノッキングを回避するわけだ。