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 「CES 2023」を巡る話題を取り上げてきたこのコラムも、3回目の今回が最後になる。取り上げるのは、前回のセンサーと並んで自動運転の重要な要素技術である半導体の動向である。自動運転用半導体では、これまでイスラエルMobileye(モービルアイ)と米NVIDIA(エヌビディア)が覇を競ってきた。しかしこの分野で最近台頭してきたのが、スマートフォン用の半導体では大手の米Qualcomm(クアルコム)だ。今回のCESで注目されたのは、ソニー・ホンダモビリティ(SHM)がクアルコムの高性能SoC(System on Chip)を採用すると発表したことである。その演算性能は800TOPS(毎秒800兆回)という膨大なものだ。

ソニー・ホンダモビリティ(SHM)の電気自動車(EV)に米Qualcomm(クアルコム)のSoC(System on Chip)を採用すると発表したソニーグループ会長兼社長で最高経営責任者(CEO)の吉田憲一郎氏(左)とクアルコム社長兼CEOのクリスチアーノ・アモン氏
ソニー・ホンダモビリティ(SHM)の電気自動車(EV)に米Qualcomm(クアルコム)のSoC(System on Chip)を採用すると発表したソニーグループ会長兼社長で最高経営責任者(CEO)の吉田憲一郎氏(左)とクアルコム社長兼CEOのクリスチアーノ・アモン氏
(写真:クアルコム)
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 前回の「CES 2022」で注目されたのは、米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)が次世代の運転支援システム「ウルトラクルーズ」に、クアルコムが開発した「Snapdragon Ride」と呼ぶSoCを採用すると発表したことだった。ウルトラクルーズは、GMが2023年末に発売予定の最高級電気自動車(EV)「Cadillac CELESTIQ(キャデラック・セレスティック)」に搭載される予定で、最大の特徴は「あらゆる運転シナリオの95%において、ドア・ツー・ドアのハンズフリー運転を提供する」(GM)ことだ。これを文字どおりに解釈すれば、高速道路だけでなく一般道路での手放し運転も可能にするシステムということになる。Snapdragon Rideは、この機能を実現する重要な役割を担う。

クアルコムの「Snapdragon Ride」を採用する米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)の最高級EV「Cadillac CELESTIQ」
クアルコムの「Snapdragon Ride」を採用する米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)の最高級EV「Cadillac CELESTIQ」
(写真:GM)
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 クアルコムはこのほか、2022年3月にドイツBMWグループと共同で、ADAS(先進運転支援システム)やレベル3の自動運転機能を共同開発すると発表しているのに加えて、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)グループで自動運転システム開発を担う同CARIAD(カリアド)もSnapdragon Rideを採用したと発表している。これまでGMやBMW、フォルクスワーゲンは、モービルアイの大口の顧客だっただけに、これらの「くら替え」はモービルアイにとってかなり痛い発表だったはずだ。また、自動運転用半導体ではないが、欧州Stellantis(ステランティス)もデジタルコックピット用半導体でクアルコムと提携することを2022年4月に発表しており、この提携が今後、ADASや自動運転分野にまで拡大する可能性もある。

 今回のCESではこうした「モービルアイ包囲網」がさらに拡大し、世界の主要1次部品メーカー(ティア1)を巻き込んでクアルコムがエコシステム(生態系)を拡大していることをアピールした。クアルコムは現在、ADAS用SoCとして、第1世代のSnapdragon Rideを世界の商用車で展開している。同社によれば、4nmの設計ルールで製造されるSoCと同社製の物体認識ソフトウエアを搭載した次世代Snapdragon Rideのサンプル品を世界の大手ティア1サプライヤーが評価しており、2025年の商品化を目指しているという。

 Snapdragon Rideを使って完成車メーカーにソリューションを提供しているのは、ドイツBosch(ボッシュ)、同Continental(コンチネンタル)、韓国Hyundai Mobis(現代モービス)、フランスValeo(ヴァレオ)、スウェーデンVeoneer(ヴィオニア)、ドイツZFなどで、世界の大手自動車部品メーカーのかなりの部分をカバーしている。

 また今回のCESで、クアルコムはこれまで別々のSoCを使うことが多かったADAS/自動運転用半導体とデジタルコックピット用半導体を統合することが可能な新しいSoC「Snapdragon Ride Flex」を発表した。同SoCは現在サンプル出荷中で、2024年からの生産開始を予定している。異なる多くの機能を1つのSoCで動作させるため、同SoCでは複数のOS(基本ソフト)の同時動作、仮想マシンによるハイパーバイザー機能、リアルタイムOSのサポートなどを可能にしている。

クアルコムはADAS/自動運転の機能と、デジタルコックピット用の機能を1チップでこなす新開発のSoC「Snapdragon Ride Flex」を今回のCESで発表した
クアルコムはADAS/自動運転の機能と、デジタルコックピット用の機能を1チップでこなす新開発のSoC「Snapdragon Ride Flex」を今回のCESで発表した
(出所:クアルコム)
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