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本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第87巻、第10号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

 半導体と強磁性体は情報化社会を支える材料として不可欠かつ重要な役割を果たしている。半導体は、トランジスタ・集積回路や発光・受光素子などのさまざまなデバイスに応用されている。これらの半導体デバイスにおいては、キャリヤの電荷とその輸送を高速に制御することによって多くの機能が実現されているため、高速動作が可能である。一方、強磁性体はハードディスクなどの情報記録媒体や磁気抵抗メモリなどの高速不揮発性メモリに利用されている。磁性体デバイスは、電子スピンのもつ「不揮発性」「高速性」「耐久性」という性質を生かしている。もし、半導体と磁性体の特長と機能を融合させることができれば、両者を持ち合わせた新しい機能デバイスが期待できる。

 磁性材料と半導体材料の特長を融合できる材料として、強磁性半導体は特に重要な研究対象であり注目されている。1990年代にMnを添加したIII-V族強磁性半導体(In、Mn)As1)や(Ga、Mn)As2、3)が開発され、半導体でも強磁性が発現できることが知られている。また、Mn系強磁性半導体は電界効果4)や光照射5)によるキュリー温度TC6)や磁気異方性7)の変調など、磁性体の特性を電界や光などの外部入力によって制御できる画期的な機能が次々に実証され、世界的に多くの研究が行われた。また、強磁性半導体の物性を理解するために、2000年に平均場ツェナーモデル8、9)、†1が提案され、Mn系強磁性半導体の発現機構の説明や新材料の探索が行われてきた。しかし、20年以上にわたるIII-V族を中心とするMn系強磁性半導体の大規模な研究にもかかわらず、次の3つの課題は未解決のままである。①p型強磁性半導体しか作製できない(信頼できるn型が存在しない)、②キュリー温度TCが室温より低く室温では強磁性にならない、③強磁性の起源に関する統一的な理解がない。これらの未解決課題は強磁性半導体のデバイス応用にとって大きな障壁となっている。

†1 平均場ツェナーモデル 価電子帯の自由正孔と局在スピンの間に働く相互作用を仮定し、平均場理論によるMn系族強磁性半導体の発現機構を説明する理論モデル。

 我々は、以上の課題を解決できる新しい強磁性半導体として、Fe-AsやFe-Sbの正四面体共有結合を有する閃亜鉛鉱型の鉄系III-V族強磁性半導体を提唱し、2012年以来、材料の作製、基本物性の解明およびデバイスの実証を行ってきた。鉄系強磁性半導体は、①p型だけではなくn型強磁性半導体も作製できる、②室温以上のTCをもつ強磁性半導体を作製できる、③キャリヤが不純物帯ではなく伝導帯(価電子帯)に存在しバンドエンジニアリングが比較的容易である可能性がある、などの特長により、従来の強磁性半導体材料の課題を根本的に解決できる半導体スピントロニクス材料となる可能性がある。本稿では、鉄系強磁性半導体の結晶成長、構造評価、基本的な磁気物性を紹介し、鉄系強磁性半導体の特色を生かした半導体スピンデバイスについて議論する。

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