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本記事は、照明学会発行の機関誌『照明学会誌』、第101巻、第11号、pp.496-499に掲載された論文「省エネと快適性を両立するための室内温熱環境設計支援ツールの開発とその適用」の抜粋です。照明学会に関して詳しくはこちらから(照明学会のホームページへのリンク)。

はじめに

 我が国の多くの地域では冬の外気温は低く、夏の外気は高温・多湿、かつ、日射も強い。こうした天候などの外界の温熱環境変化から身を守るために、建物(住宅)や暖冷房がわれわれの暮らしに不可欠である。

 建物の温熱環境計画とは、外界の温熱環境変化に対して適当な室温や室内湿度を形成・維持するためには、建物や空調設備をどう計画したらよいかを意味する。このためには、建物の熱的条件(壁体や開口部などの外皮条件および換気条件)が与えられたときに、外界の温熱環境変化や室内の熱供給・除去の状況により室温や室内湿度がどのように変化するかを伝熱計算で求める必要がある。これにより、快適な室内温熱環境を形成・維持するために必要な暖冷房時の熱供給・除去量を見積もることができ、また、少ない熱量で快適な室内温熱環境を維持するために必要な建物外皮性能や適切な換気方式を知ることができる。

 伝熱計算では、複雑に配置された部材や室間の熱の移動、室の方位や配置状況などが室内温熱環境形成に及ぼす影響を考慮する必要がある。つまり、一室のみ考慮すればよいわけではなく多数室からなる建物全体の伝熱を計算できるようなモデル化を行わなければならない。この際、室内の伝導・対流・放射・蒸発による複合的な伝熱に加え、隣室からの熱的影響についても適切に取り扱う必要が出てくる。そして、室内の快適な温熱設計が目的であるため、生活者が快適かどうか、すなわち、人体の温熱快適性を適切に判断するための基準を準備しておかねばならない。

 本報では、上記計算方法として様々な計算方法が提案されているが、実用性の観点*1から一般的に使われている熱回路シミュレーションを取り上げ、概説する。まず、人体の温熱快適性の考え方について述べ、次に、著者らによる住宅を対象とした室内温熱環境および生活者の快適性のシミュレーションツール開発事例*2を紹介する。

*1 評価する時間スケールの自由度が高い(短時間~通年)こと、計算プロセスが単純で計算結果の解釈が比較的容易なこと、住宅の断熱に関する省エネ基準を定める国交省の年間暖冷房負荷計算方法として採用されていたことなどがあげられる。
*2 著者らの開発した計算手法については、2009年に年間暖冷房負荷計算方法として国交省の大臣認定を受けた。