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博物館の移転と照明の連動

 東日本大震災は、いうまでもなくあらゆる分野にわたり省エネ化を意識させる大きな契機となった。照明においてはその省エネを推進する新しい器具として、LED照明の活用と普及が震災以降にいっきに進んだ。それは、2012(平成24)年に白熱ランプの製造が中止され、翌2013(平成25)年には「水銀に関する水俣条約の採択」が発布され1)、2020年(平成32)年には蛍光ランプも製造中止が予定されている2)ように、温暖化など地球規模の動向とも歩みを共にしている。

 当館が墨田区安田庭園内建造物選定の裁決を得たのが2014(平成26)年であり、博物館の移転を機に、展示照明もLED化することを念頭に本腰を入れて検討調査し始めたのである。

 ほかの美術工芸品に対し、日本刀は個々の違いを認識することが難しいといわれる。したがって展示でどこまで見えるかは日本刀展示の生命線であり、新しい光源であるLED化でどこまで対応できるかが求められる。

日本刀の鑑賞について

 日本刀は基本武器ではあるが日本の歴史と並行し、公家武家間の贈答品など、時の施政者をはじめとする権力の象徴といった側面を持つが、同時にまた古くより作品そのものを鑑賞するという歴史も存在する。現存する最古の刀剣書といわれる『銘盡』(めいづくし:応永30年、銘鑑のようなもの)は、東寺観智院に旧蔵されていたもので、国の重要文化財に指定されている。続いて室町時代後期には最古の押形集とされる『往昔抄』(おうじゃくしょう)、慶長年間に入ると鑑定の基本的姿勢を綴った『解紛記』(かいふんき)などをはじめ、室町時代より数々の伝書が今に遺されている。

 日本刀は鑑賞する際、通常は手に取り、右手で茎(図3)の部分を持ち、左手で袱紗なりを刀身の中央部辺に当て、刀身の姿は立てて把握する。地鉄の様相は天井光などのベース照明を俯瞰にあて認識し、刃文や細部の景色は、スポット照明の灯りを拾いながら刀身の元から先へ視点を移動させ、裏に返して先から元へと見所を捉えていく(図4)。ゆえに横位置正面に据え置く美術館・博物館の展示とは、物に対しての視点位置が全く異なり、かつ視点の移動を伴って初めて全体像を理解できるのである。

図3 日本刀各部の名称
図3 日本刀各部の名称
図4 刃文および細部の鑑賞
図4 刃文および細部の鑑賞
©石橋雅之((株)YAMAGIWA)
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 いかに刀身の姿、地鉄の肌合いや刃文、地刃・刃境・刃中の微妙な景色を展示の形態で提供できるか,視覚に認識されるか、見えなければただの鋼棒となる。