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初期LED照明による日本刀展示への影響

 ここでいう初期とは総合的なLED照明における開発工程の意ではなく、生活空間やオフィス照明より後発を前提にした美術館・博物館照明としての初期LEDである。記憶するところでは当分野での開発は2010(平成22)年頃より活動をみせ、2012(平成24)年の白熱ランプの製造中止に呼応する形で各メーカーが本格的にLED戦線に乗り出したと把握している。

 2013(平成25)年から翌年にかけて当博物館も数社の製品を試行したが、率直に日本刀展示に対しては意に沿う製品は皆無であり、この時点ではむしろLED照明導入に対し、否定的にならざるを得なかった。長時間の照射による作品損傷の革新的な軽減、長寿命にして省エネによるランニングコストダウン、調光や分光特性を利用した繊細な演出などを考慮すればLED照明は優れていると充分認識しつつ3)4)、やはり「見え」を意識する限り、導入に関しては困難な道程を覚悟するに留まった。

 まずは仕組みを知るところからかと書籍や論考を入手するが、言い訳として保存科学の専門学芸員ではないので、全く文意が理解できない。「青色は赤色の波長成分を吸収して、青色を発し」5)とは。あの清冽なセザンヌのサントヴィクトワール山の「青」は、どうみてもセザンヌが産み出した「青」であり、赤色を吸収しているということなどは信じられない。諦観の境地をさ迷いながら、しかし手放すわけにはいかない。自己に染みついた感覚から脱皮するためには、外部の専門家に指導を仰ぐほかはない。企業はもちろん文化庁、東京文化財研究所(以下、東文研)の先生方を巻き込んで試行検証を重ねていった。

 2015(平成27)4月、「美術館・博物館の次世代照明基準に関する研究調査委員会」(以下、調査委員会)が照明学会内、視覚・色・光環境分科会下に発足した。LED照明にあまりにも納得しない私へのエールであろうか、調査委員会のメンバーとしての場を与えられた。同年7月、東文研にて「水俣条約による水銀規制と展示照明等への影響」と題された保存科学担当学芸員向けフォローアップ研修が開催された。自身「LED照明による日本刀展示への影響」と題して当時のLED照明における問題点、主には見えの苦悩を中心に事例発表をさせていただいている。