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本記事は、照明学会発行の機関誌『照明学会誌』、第102巻、第1号、pp.32-35に掲載された論文「デンソーグローバル研修所・保養所『AQUAWINGS』」の抜粋です。照明学会に関して詳しくはこちらから(照明学会のホームページへのリンク)。

はじめに

 郊外で星空を眺めると、その美しさに圧倒される一方で、普段、私たちがいかに不要な光に曝されているかを実感する。

 本来、美しい景観や建築物を楽しむためには不要な光は余計な存在でしかない。しかし、私たちは都市の生活に慣れ切ってしまい、余剰に対する感覚も鈍りがちである。

 AQUAWINGSは周辺の景観を内部デザインに取り込んで、視覚的に一体化することを意図した。併せて、人間が本来有している不要な光を嫌う感覚を呼び覚ますことも狙った。そして、余剰の排除が結果的に施設の省エネルギーに結び付くこと、更には、人々がこの施設内に住まうことで呼び覚まされた余剰を嫌う人間本来の感覚が、自宅などに戻った後にも、いわゆる環境配慮に姿を変えることも期待している。

建築計画

 AQUAWINGSの主用途は、グローバル研修センターであり、建築主であるデンソー様幹部の方々の研さんの場となっている。また、休日にはグループ社員の保養施設としてもご活用されている。

 建物は、浜名湖畔から約40mの小高い丘の頂上に建設されている。風光明媚な風景に調和した外観とするため、自然の地形に馴染む緩やかな流線型の平面と、上階につれて段々にセットバックする断面、そして深い庇により建物の圧迫感を軽減させることで、新たな地層の積層感をもつ特徴的な形状として、自然と一体感をもちながらも非日常を期待させるものとしている。

 クライアントからのご要望もあり、参加者自らの積極的な研修への参加を促すための工夫を施した。研修参加者が好きな場所を見つけて自由に施設を使うことができるように、研修エリアはどこからも全体が感じられるように視覚的な開放感をもって構成されている。そして、視覚的な開放感は周辺の風景も対象となる。研修参加者は季節、時間、天候による風景の移ろいを感じながら、館内の開放的な空間構成による人相互や自然環境からの刺激を受けて、自己の想像力を高めていける施設なのである(図1)。

  • 所在地:静岡県浜松市
  • 延床面積:11,263.85m2
  • 設計監理:(株)日建設計
  • 竣工:2016年3月
撮影:フォワードストローク
撮影:フォワードストローク
図1 AQUAWINGS概要