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本記事は、照明学会発行の機関誌『照明学会誌』、第102巻、第9号、pp.430-433に掲載された「社会に浸透するLED インテリジェント照明 可視光ビーコンシステム」の抜粋です。照明学会に関して詳しくはこちらから(照明学会のホームページへのリンク)。

 従来の光源より消費電力が少なく寿命が長いことが特徴であるLED照明は、白熱電球や蛍光灯に代わる次世代の照明として普及が進んでいる。また、LEDは点滅性能に優れているという特長があり、容易に調光することができるだけでなく、点滅を利用して情報を送る可視光通信を行うことが可能である。特に、位置情報を代表とした特定のデータを送るビーコン信号をLED照明から送ることにより、様々な便利なサービスを行うことができる。

 筆者(春山)は、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)においては2007年より、IECにおいては2014年より標準化活動を行ってきたが、2017年3月には、IEC62943:2017“Visible light beacon system for multimedia applications”(マルチメディア応用のための可視光ビーコンシステム)という名称の国際規格を制定することができた。IEEEにおいても可視光通信の標準化活動が行われており、高速可視光通信とカメラのイメージセンサを用いた通信の両方の標準化が行われている*1。また、ITUにおいても通信キャリア系の業界を中心に標準化の議論が行われている1)

*1 http://www.ieee802.org/15/pub/TG7.html

 本記事では、ビーコンとしての可視光通信、およびJEITAとIECでの可視光ビーコンシステムの標準化の内容を紹介する。

 LED照明などの可視光光源から送られたビーコン信号を端末で受けることにより、端末の正確な位置を把握することが可能になる。また、特定の場所で必要となる情報を手軽に受け取ることも可能になる。これらの特性を用いると、可視光ビーコンを用いて、広告、屋内ナビゲーション、ゲームなどの様々な応用を実現することが可能になる。

 例えば、図1に示されているナビゲーション用の可視光ビーコンシステムでは、位置IDが、LEDライトから送られ、端末がIDに応じた位置情報あるいはナビゲーションメッセージをサーバから受け取ることができる。

図1 ナビゲーションシステム用の可視光ビーコンシステム
図1 ナビゲーションシステム用の可視光ビーコンシステム
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 また、図2にはデジタルサイネージからの広告マルチメディア情報を受信する可視光ビーコンシステムが示されているが、このシステムにおいては、LEDライトからの情報に基づいて端末が様々なコンテンツをサーバから受け取ることができる。

図2 デジタルサイネージから広告マルチメディア情報を受信する可視光ビーコンシステム
図2 デジタルサイネージから広告マルチメディア情報を受信する可視光ビーコンシステム
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可視光ビーコンシステムの標準化

 1990年代に白色LED(Light Emitting Diode)が発明されて以降、可視光通信の研究開発が盛んに行われているが、2007年以降、可視光通信の普及を目指して、その標準化の活動が行われている。

 可視光通信の標準化は、電気工学と電子工学の標準化を行うIEC(国際電気標準会議;International Electrotechnica Commission)、日本のエレクトロニクス技術や電子機器、情報技術に関する業界団体であるJEITA、アメリカの電気工学・電子工学技術の学会であるIEEE(The Institute ofElectrical and Electronics Engineers,Inc.)、無線通信と電気通信分野の標準化を行うITU(国際電気通信連合)での活動がある。本論文では、可視光ビーコンに関連した標準であるJEITAとIECでの標準化の内容を紹介する。

JEITAにおける可視光通信標準化

 JEITAにおいて2007年にCP-1221可視光通信システム、CP-1222可視光IDシステムを制定し、2013年にはCP-1223可視光ビーコンシステムを制定した*2

*2 https://www.jeita.or.jp/cgi-bin/standard/list.cgi?cateid=1&subcateid=50

 JEITAにおいて筆者がリーダーとなり、2007年にJEITA CP-1221「可視光通信システム」、JEITA CP-1222「可視光 IDシステム」を制定した。JEITA CP-1221およびJEITA CP-1222を作成した可視光通信標準化ProjectGroupメンバー企業は、ソニー(株)、(株)テクニカフクイ、(株)東芝、(株)中川研究所、日本電気(株)、パイオニア(株)、アバゴ・テクノロジー(株)であった。

 また、2013年にはJEITA CP-1222を修正したJEITA CP-1223「可視光ビーコンシステム」を制定した。JEITA CP-1223を作成した可視光通信標準化Project Groupメンバー企業は、(株)電通、(株)東芝、日本電気(株)、パナソニック(株)、富士通(株)、ルネサスエレクトロニクス(株)であった。

JEITA CP-1221「可視光通信システム」

 JEITA CP-1221「可視光通信システム」(2007年3月制定)で規格化した内容は、可視光通信の光の波長の範囲を380~780nm とし、アプリケーションごとにその波長範囲内で1nm単位の任意の範囲を決めることができるとした。また、主として光強度を特定の周波数で振動させたうえに送信したいデータで変調させるサブキャリア方式を用い、異なるアプリケーションごとに異なるサブキャリア周波数を割り当てることで、アプリケーション間の干渉を防ぐという内容である。

JEITA CP-1222「可視光IDシステム」

 JEITA CP-1222「可視光IDシステム」(2007年6月制定)は、照明器具、交通信号機などからID情報や一般データを受信することにより、位置情報などのデータを受信することができる。JEITA CP-1222の変調方式は、光強度変調による28.8kHzのキャリア上にデータを乗せる方式であり、そのデータサイズは512ビット、データレートは4.8kbps(毎秒4.8キロビット)である。

JEITA CP-1223「可視光ビーコンシステム」

 JEITA CP-1223「可視光ビーコンシステム」(2013年5月制定)は、JEITA CP-1222を修正したものである。JEITA CP-1223は JEITA CP-1222のキャリアを省略し、データサイズを128ビットに短くしたものになっている。この変更により、JEITA CP-1223は JEITA CP-1222より敏速にデータを受信することが可能である。JEITA CP-1223のデータレートは JEITA CP-1222と同様に4.8 kbpsである。

 前節のIEC 62943:2017は、JEITA CP-1223をベースに提案され、JEITA CP-1223を拡張した形で制定された。