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 がん免疫療法は、革新的ながん治療法であり、2018年に、本庶佑特別教授(京都大学)が、がん免疫療法の1つである免疫チェックポイント阻害療法の開発への貢献が認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞している。

 免疫調節に用いられる免疫チェックポイント阻害剤単独での奏効率は20%程度であることから、併用療法による奏効率の向上が期待されており、併用療法に係る特許出願件数も、近年増加している。一方で、併用療法の中でも養子免疫療法や腫瘍溶解性ウイルス療法と組み合わせた併用療法に関しては、特許出願件数はまだ多くはなく、日本の企業や大学にも参入する余地があると推測される。

 遺伝子改変T細胞療法は、免疫チェックポイント阻害剤に次ぐがん免疫療法として期待されており、特許出願件数も増加傾向ではあるものの、薬剤投与に伴う副作用や、細胞培養に関連した製造コスト等の課題が山積している。日本では、iPS細胞関連技術を含めた細胞製剤等の技術開発力の蓄積により、細胞製剤を開発する環境が整いつつあるため、その利点を活かし、副作用や製造コストの課題を克服した日本発の開発品の上市が期待される。

 近年、がん免疫療法と呼ばれる革新的治療法が国際的に注目されています。がん免疫療法は、がん細胞により免疫機能にかけられたブレーキを解除する、もしくは生体本来の免疫機能を増強することで、がん細胞を除去することを目指した治療法です。

 「平成30年度特許出願技術動向調査」において、このがん免疫療法に関する市場動向、政策動向、特許出願動向、研究開発動向等の調査を行い、その実態を明らかにしました。この調査の主要部分を本稿で紹介します。

 がん免疫療法には大きく分け、免疫調節、養子免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス療法、がんワクチン療法の4種類があります。

A. 免疫調節

 免疫増強・免疫抑制阻害により、免疫系の活性化・免疫抑制シグナル伝達の阻害を図る治療法

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B. 養子免疫療法

 免疫細胞を体外で培養・活性化し、体内に戻すことで免疫系の活性化を図る治療法

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C. 腫瘍溶解性ウイルス療法

 がん細胞へ感染し、細胞死へ誘導する効果を持つウイルスを投与することによるがんの死滅、およびがん抗原の拡散によって免疫系の活性化を図る治療法

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D. がんワクチン療法

 免疫細胞の活性を向上させるため、抗原提示細胞、抗原を体外から導入することで免疫系の活性化を図る治療法

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 2018年10月1日、James P. Allison教授(米国MD アンダーソンがんセンター)、本庶佑特別教授(京都大学大学院医学研究科・医学部)の2人に「負の免疫調節の阻害によるがん治療の発見」に対して、ノーベル生理学・医学賞が授与されました。これは、両名共に、がん免疫療法の1つの分野である、免疫チェックポイント阻害療法(上記のAの技術の1つ)の開発への貢献が認められた結果です。

 ところで、免疫系ががん細胞を排除する過程を「がん免疫サイクル(Cancer-immunity cycle)」とよび、7つのステップで構成されます。免疫調節、養子免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス療法、がんワクチン療法はそれぞれ異なるステップに作用をすることで抗がん作用を発揮します。このがん免疫サイクルの視点で、本調査の対象技術である上記の4つの療法を整理すると図1のとおりになります。

図1 【本調査の対象技術とがん免疫サイクル】
図1 【本調査の対象技術とがん免疫サイクル】
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