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 本調査では、近年、機能性化学品を製造する技術として注目を集める制御ラジカル重合関連技術について調査分析を行った。制御ラジカル重合では、分子量分布の小さいポリマーの合成に加え、末端官能基ポリマーやブロック共重合体等の合成、配列制御や立体規則性制御等の高度な高分子構造の制御が可能となる。

 日本は、制御ラジカル重合関連技術を駆使して、輸送機器分野や電気・電子分野において、粘・接着剤やシーリング材、エラストマー等の高機能な化学品を実用化してきた。今後は、製品開発の課題に対するソリューションにつながる高付加価値、高機能な材料の開発を目指すとともに、持続的発展やサーキュラーエコノミー(循環型経済)に適したポリマーの開発や、医療・健康等のヘルスケアに関連する技術の開発といった、新たな分野への応用が期待される。

1.はじめに 

(1) 調査の背景・目的

 本調査では、近年、機能性化学品を製造する技術として注目を集める制御ラジカル重合関連技術について調査分析を行いました。機能性化学品は、「Connected Industries」の重点取組分野「バイオ・素材」の一つであり、その研究開発の促進は、新たな付加価値を創出し、我が国の技術・市場優位性を維持・向上させるために不可欠です。

 従来のラジカル重合は、重合性モノマーに過酸化物を代表とするラジカル開始剤を使用して高分子ポリマーを生成する重合方法であり、熱や光によるラジカル開始剤の分解で生じるラジカルが重合性モノマーと反応して、一次ラジカルを生成し、そして、生成した反応性に富む一次ラジカルが次々に重合性モノマーと反応して、成長反応が起こります。

 従来のラジカル重合には、次の課題が知られています。(ⅰ)温度、濃度及び重合性モノマーのラジカルとの反応性比によって、ポリマーの組成が一義的に決まってしまう。(ⅱ)異種モノマーとの混合系では、この反応性比が異なる場合はブロックポリマーやグラフトポリマーなどの高機能性ポリマーが得られず、ランダム共重合体やホモポリマーとランダム共重合体との混合物となる。(ⅲ)連鎖移動反応が起こりやすいため、ポリマー性能を発揮する上で重要な要因である、分子量や分子量分布等の制御が困難となる。

 一方、制御ラジカル重合では、図1に示されるように、成長ラジカルP・を可逆的に保護基X・で保護することで、その脱保護(活性化)、モノマーの付加(成長)、保護(不活性化)を繰り返し、分子鎖を少しずつほぼ均等に成長させます。そのため、連鎖移動反応が起こらず、分子量分布の小さなポリマーが得られます。また、活性末端の存在により、末端官能基ポリマーやブロック共重合体等の合成、配列制御や立体規則性制御等の高度な高分子構造の制御が可能となります。制御ラジカル重合の応用分野としては、エラストマーやシーリング材、粘・接着剤、分散安定剤、機能性微粒子、医用材料等多岐にわたっています。

 このような背景の下、「令和元年度特許出願技術動向調査」において、制御ラジカル重合関連技術に関する特許・論文の動向等を調査し、今後の展望について検討しました。本調査の主要部分を本稿で紹介します。

図1 制御ラジカル重合の一般的な基本概念
図1 制御ラジカル重合の一般的な基本概念
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