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本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第121巻第1193号(2018年4月)pp.26-29に掲載された「障がい者スポーツへの貢献~競技用義足を例にして~」の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

競技用義足を取り巻く現状

 “8m40cm”は、マルクス・レーム選手(ドイツ)が持つ、片下腿切断などのクラスにおける男子走り幅跳び世界記録である。2016年リオデジャネイロ五輪の男子走り幅跳び優勝記録は8m38で、同選手の世界記録が上回っていた。「レーム選手がリオ五輪に出場していれば、義足ジャンパーが五輪メダリストに……」という声もあった。

 一方で「踏切足に装着した義足が人間の脚よりも有利に働くのでは」という疑念が高まった。同選手の五輪出場の希望に対して、国際陸上競技連盟は「義足に有利性がないと選手自身が証明する」ことを参加条件とした。各種の科学的データを基に証明が試みられたが、義足の有利性を完全には否定できず、同選手は五輪出場を断念した。パラリンピアンの努力や記録向上への称賛が、選手でなく用具に向けられた典型的な例といえる。

競技用義足の構成と選定指標の現状

 義足は、主に断端(切断部)を収納するソケットと板バネ、これらを接続する部品群(切断レベルに応じた継手やアダプター)から構成される。どのパーツも、競技用は日常用以上の軽量性と耐久性が求められ、素材はアルミニウム合金やチタン合金、炭素繊維やガラス繊維による繊維強化樹脂をはじめとする複合材料となる。

 ソケットには、アクリル樹脂のほか炭素繊維強化樹脂(CFRP)が用いられ、走行時の衝撃を支える。競技者により断端形状が異なるのはもちろん、立位と走行中での使用感の違い、発汗の影響、練習量による断端部の周囲長の変化など、個々に対応が必要だ。

 板バネはCFRP製で、反発特性には形状、プリプレグの種類、積層構成の組み合わせが影響する。義足関連の競技規則では、板バネの長さは座高や腕の長さから許容されうる最大身長を超えないよう決定する、とされている。他にホッピング可能なバネ形状の禁止以外は、材質や反発係数などに制約はない。板バネ選択の指標としてメーカーが提示するカテゴリーで体重ごとに区分する例があるが、この区分のみで個々に適した選択は困難だろう。ソケットの開発や板バネの選定に役⽴つような定量的な情報が乏しいのが現状だ。