戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、グローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では品質管理総合大会の位置付けで部・課長層を主対象にした「クオリティフォーラム2020」(2020年11月25~27日)を開催する。同フォーラムの開催に先立ち、登壇者の1人である東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンターチーフエバンジェリストの福本 勲氏に聞いた、デジタルトランスフォーメーションに対する考えを3回に分けてお届けする。(聞き手は廣川 州伸=ビジネス作家)
日本企業、とりわけ製造業のDXを進めるうえでの課題を教えてください。
福本:先だってビジネスモデルや自社の立ち位置そのものを変革するために手段としてデジタル技術を活用するものを「DX」と呼ぶという話をしました。私は既存の事業、既存の業務プロセスの中に、デジタルテクノロジー、すなわちデジタルの技術をいかに利用できるかという視点だけで臨むと、DXはうまく実現できない恐れがあると思っています。DXは全く新しいビジネスを生み出す取り組みであり、非常に難しく、リスクがある。そこでデジタルエボリューション(DE)によって既存事業に余力を生み出しながらDXを進めることが必要になります。
その際に、現在事業を抱えているメンバーにDXをやらせるのは現業とのしがらみが生まれるので難しいでしょう。新部門や新会社を作るなどDXを主目的とした組織を新たに構築し、新しいステークホルダーを見極めながらビジネスモデルを作り上げる必要があります。
著書「デジタルファースト・ソサエティ」でDXのステージが定義されていました。
第1ステージから第2ステージに向かう中では、プラットフォーム・エコシステムによってつながることにどのような価値があるのかということがポイントになります。第2ステージ、第3ステージに向かっては自らの立ち位置を自社から顧客の業界、社会側に移して全体を見ることが大事になると思っていますし、そうならなければいけないと思っています。
それにしても、トップの役割は大きいですね。
福本:企業のトップは、ライフタイムバリューやプロジェクトベースで考えるなど、売り方だけの問題ではなく企業文化や評価方法なども新しい形に組み替える必要があります。経営陣と現場が一緒に進められなければ、いくら計画を立てても、成果を生むことは難しい。DXの取り組みにおいては、とかくデジタル技術を中心とした技術論で語られることが多いのですが、企業のトップが危機感を持って進めるべきビジネス変革と捉えるべきだと思っています。