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 2020年内の発売を控えたドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)の電気自動車(EV)「ID.3」。同車は、どのようなコンセプトでデザインされたのか。2020年5月25日に開催されたジャーナリスト向けプレゼンテーションから、その詳細を紹介する。

 ID.シリーズ(あるいはID.ファミリー)は、VWが2020年から展開するEVのシリーズだ。特徴は専用プラットフォームと、幅広い車型の展開にある。

 駆動方式や電池容量にも多様性がある。さらに(はっきりとはわからないが、都市内のインフラと結びつく)コネクティビティーをはじめ、エレクトロニクスの活用にも注目すべき新しさがあるとされる。

電池容量は45kWh、58kWh、77kWhとあり、航続距離は最大で550km
電池容量は45kWh、58kWh、77kWhとあり、航続距離は最大で550km
(出所:VW)
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 従来のクルマと違っていなくてはいけないが、離れてもいけない。そこがポイントだったと、ID.3を手がけたデザインチームは声をそろえる。

水平基調のリア・コンビネーション・ランプに、ブラックのハッチゲートがID.3を特徴付ける
水平基調のリア・コンビネーション・ランプに、ブラックのハッチゲートがID.3を特徴付ける
(出所:VW)
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 「私たちのラインアップには『e-Golf(e-ゴルフ)』など従来のICE(内燃機関搭載車)用プラットフォームを用いたEVもあります。しかし、ID.3がまったく異なるのは、MEB(Modular Electric Toolkit)と社内で呼ぶEV専用のプラットフォームを使っていることです」

 プレゼンテーションを仕切った、VWグループのヘッドオブデザイン、クラウス・ビショフ(Klaus Bischoff)氏はそう語る。

EV専用プラットフォーム「MEB」
EV専用プラットフォーム「MEB」
(出所:VW)
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 「ID.3」は、ハッチバックタイプのボディーを持つ。全長は4262mmと発表されているので、現行の7代目「ゴルフ」(ゴルフ7)とほぼ同寸だ。ただしホイールベースは2765mmと、現行「パサート」の2790mmに迫る長さ。これもプロダクト・プランニング・チームが挙げる特徴である。

全長4262×全幅1809×全高1552mmで、ゴルフに近い
全長4262×全幅1809×全高1552mmで、ゴルフに近い
(出所:VW)
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 「オープンスペース・アーキテクチャー」というのが、ID.3のデザイン上の基本的な考え方という。どれだけ乗員のためのスペースを確保できるかがスタート地点で、最後にボディーをかぶせる。通常のVWのデザインとは逆方向からのアプローチだそうだ。

 確かにパサートはとても広い室内空間を持っている。機能主義が常にVW車の基本だと、よく分かるパッケージだ。ID.3でも、インテリアはパサートに比肩する広さというのが大きなセリングポイントという。

スペース効率の良さが特徴的なパサートに迫るホイールベースを持つだけに後席空間は広そうだ
スペース効率の良さが特徴的なパサートに迫るホイールベースを持つだけに後席空間は広そうだ
(出所:VW)
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 「エクステリアデザインにおいて最も重要だったのは、ICEとはまったく違って見えるようにボディーをデザインすることでした」

 ID.3はEVなのでエンジンはない。モーターをボディー後方に搭載し、後輪を駆動する。床下には電池。いわゆる骨格が従来のICEとはまったく異なる。

ID.3はモーターをリアに搭載し後輪を駆動する
ID.3はモーターをリアに搭載し後輪を駆動する
(出所:VW)
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 「開発をスタートするとき、(ID.3の)チームメンバーは、既存のe-Golfを徹底的に研究しました。こちらはもともとICEだったものをEV化しています。私たちは、ID.ファミリーをより廉価で、かつ電池の容量を変更できるように、作業を進めました」

 プリコンセプト・デベロップメントを担当した、マルコ・ケンネマン氏の言葉だ。

 今回設計された電池は、効率がよく、コンパクトで、かつ簡単に扱えるのを特徴とする。ID.3専用設計でなく、ID.ファミリーすべてに使えるよう設計したという。

 EVはエンジン冷却用のラジエーターは必要ないので、従来と同じ位置にグリルを設けなくてよい(インバーターの冷却のためにアンダーグリルは備わる)。空気という点でいうと、車体の空力特性をできる限り下げる努力は怠らなかった、とビショフ氏は説明する。

 衝突安全の要件さえクリアできれば、従来のICEとはまったく違う観点でボディーをデザインすることもできる。かといって、斬新すぎるデザインでは、ユーザーの気持ちが離れてしまうという懸念もあった(BMWの「i」シリーズが念頭にあったはず)。

 ビショフ氏のチームは、水平基調のラインをフロントマスクに入れたり、太いリア・クオーター・ピラーを前傾させたりして、ゴルフに代表される、従来のVW車につながるアイデンティティーを持たせた。

大径ホイールや前傾したリア・クオーター・ピラーで躍動感を表現
大径ホイールや前傾したリア・クオーター・ピラーで躍動感を表現
(出所:VW)
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 「リア・クオーター・ピラーのグラフィック処理や、目をひくホイールのデザインなど、細部は従来のVW車とまったく異なります。一方、どこかユーモラスな印象をフロントマスクに持たせたいと考えました」

 ビショフ氏は、空冷エンジンをリアに搭載していた「ビートル(Beetle)」や「ブリ(Bulli)」(タイプ2)といった過去のクルマを挙げる。どちらも特徴的なフロントマスクを持っていて、今でも人気が衰えないのは、そのおかげだというのだ。

 「ラジエーターグリルはないけれど、VWのプロダクトは、親しみやすさが大事。未来のクルマだってスマイルが必要でしょう」