ドイツ・ポルシェ(Porsche)の「911」は、1964年の誕生以来、その基本構想を変えないGTカーといえる。初代以来のリアエンジン・リアドライブ(RR)という駆動方式を守り続けているのである。
最新の「911カレラS(Carrera S)」に試乗した。ドアを開け、まず印象的なのは、よりデジタル化された運転席だった。ダッシュボードの5連メーターは従来通りだが、それらが液晶のデジタル表示となり、さまざまな情報を示す中に、カーナビゲーションの地図さえもメーター部分に表すことができる。シフト操作は、かつてのレバーの形状から小型のスイッチ的な操作部となっている。ダッシュボード中央は、カーナビゲーション画面のほかに「ポルシェ・コネクト」と呼ばれるサービスの表示部にもなる。
時代とともに、GTカーやスポーツカーもデジタル化、情報化されている様を実感させられた。
エンジンは、水平対向6気筒のガソリンツインターボで、これにツインクラッチ式の8速AT(自動変速機)が組み合わされる。一般にDCT(デュアルクラッチ変速機)と呼ばれる方式だが、ポルシェではドイツ語表記の頭文字をとった「PDK」と名付けられる。エンジンの最高出力は450PSで、最大トルクは530N・m、最高速度は時速308kmである。
高性能な諸元を目にすると運転する前から緊張しそうだが、911のすごさは、日常的にごく普通に運転できるクルマであることだ。
イグニッションは、ステアリング右側のスイッチを回転させる。操作は鍵を回した時代と同じで、ボタンスイッチを押すなどへの変更はない。実は、レーシングマシンでもポルシェは伝統的に鍵を回して始動する手法を用いてきた歴史がある。
エンジンが始動する瞬間、ブオオ~ンッと猛烈な排気音を出し、これはアイドリングストップからの再始動でも同様だ。しかし、以後は実におとなしい排気音で、市街地の運転でも周囲を気にすることはない。
市街地を運転しながらつくづく実感したのは、アクセル、ブレーキ、ステアリングの各操作に対し、1対1でクルマが的確に応答することであった。踏んだだけ利き、回しただけ動く。当たり前のことのように思えるかもしれないが、実は世の中のほとんどのクルマがそうした運転操作に若干の遅れを伴い応答する。たとえばアクセルペダルを踏み込んでもすぐ加速しないので、踏み込みを足したりするのと同じようなことを、ブレーキやステアリング操作でも人は調節しながら運転している。