日本のトラウマ「SoC事業」 独自チップブームに乗るか、背を向けるか
[独自チップ至上時代が到来、うちはどうする?]回答者:慶應義塾大学 田口 眞男氏
日本の半導体メーカーは、システムメーカーなどが独自チップを作る有力な手段であるASIC(特定用途向け半導体集積回路)の事業にトラウマがある。DRAM事業で全盛期を迎えた日本の半導体産業は、ASIC事業の発展版と言えるSoC(システムLSIとも呼ばれた)事業に注力し、その事業の採算が合わなかったために凋落していったと考える人が多いからだ。SoCは、特定企業の特定機器に合わせた仕様のチップとなるため、チップ開発に手間と費用が掛かる割には生産数量が少ない。だからといって、開発費用を発注者に求めることが難しかった。
今、IT業界の巨人や自動車メーカーなど、大量のチップを消費する大口需要家が独自チップを積極的に開発するようになった。そして、こうした独自チップの多くが、ASICを活用して作られている。同じ事業手法を適用したとしても、ユーザー企業の規模やチップの市場価値、利用目的が変われば、失敗の要因は成功の立役者に変わる可能性がある。かつて日本の半導体メーカーが注力したASIC事業をよく知る人たちには、現在の独自チップ・ブームはどのように映っているのか。
半導体の大口需要家による独自チップ開発の動きによる波及効果と、この動きに対峙する企業の身の処し方について議論している今回のテクノ大喜利。4番目の回答者は慶應義塾大学の田口 眞男氏である。同氏は、かつてのASIC事業と現在の巨大企業主導の独自チップ・ブーム下でのASIC事業を比較し、どのような半導体メーカーに恩恵がもたらされるのかを考察した。
田口 眞男(たぐち まさお)
慶應義塾大学 先端科学技術研究センター 研究員

1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。メモリーセル、高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授、2017年4月より同大学の先端科学技術研究センター研究員。技術開発とコンサルティングを請け負うMTElectroResearchを主宰。
【質問1】そもそも、IT企業や自動車メーカーが独自チップ開発に走る背景には、どのような要因があるのでしょうか?
【回答】 SoCの圧倒的メリットが発揮できるようになったことと、バリューチェーンの弱者が消えたこと
【質問2】独自チップ開発の潮流の中で、半導体専業メーカーは事業のどのような点を見直すべきだと思われますか?
【回答】強い立場を築くための作戦を考える
【質問3】独自チップを開発できない機器メーカーやサービス・プロバイダーは、開発できる企業とどのように対抗・棲み分けると思われますか?
【回答】独自チップ不在が不利にならないビジネスを展開する