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【質問1】量子コンピューターの実用化と産業化に、半導体産業はどのような貢献ができると思われますか?
【回答】古典的コンピューターの性能向上に向けたCMOSデバイスの微細化に取り組んできた300mmファブで、今度は量子回路の大規模化と量産化に貢献

 Mooreの法則の終焉について、過去に何十回も語られ続けてきた。ただし、いずれも悲観的な研究者がプロセス技術上の壁を乗り越えられないと言っていただけのことであって、いつの時代も楽観的な研究者によって乗り越えてきた。つい最近も「28nm以降の微細化は意味がない」とか1)、「10nmを切るような微細化は実用化しない」と言う議論があった。しかし、EUVリソグラフィーの光源開発にメドがついたと分かるや、あっという間に数nmまで微細化は可能というコンセンサスが得られ2)、さらにその先の探索研究も始まっている。

 しかし、その先は、量子力学的な効果(原子の波としての性質)が顕著となり、デバイスは正しい動作ができなくなり、仮にできたとしても最後には“Atoms can not scale(原子はそれ以上比例縮小不可能)”状態となり、今まで議論されてきた技術的や経済的な限界ではなく究極の物理的な限界に到達する。

 半導体微細化に頼ってきたコンピューターの高性能化も、近年はその進歩が飽和気味になってきた。この限界を克服するため、問題となる量子効果を抑制するのではなく、むしろ逆に量子力学的な現象を積極的に利用することで、さらにコンピュ―ティングの高性能化を図る試みが始まっている。半導体微細化に関するMooreの法則が限界を迎えたとしても、コンピューターの高性能化そのものは止まることはないだろう。

 たぶん、新たな量子ビット大規模集積化に関する法則が生まれ、多くの微細化研究者は、失業することなく、今度は量子ビットの高集積化を目指した新たな開発が始まろうとしている。まもなくわずかな量子ビットだけを搭載した初歩的な量子プロセッサーが量産されるようになるだろう。

 古典的コンピューティングの性能向上のためのCMOSデバイスの微細化と取り組んできた300mmファブが、今度は量子ビットの大規模集積化に貢献し、量子プロセッサーが生産される可能性が出てきた。今の状況は、「IC の歴史」になぞらえれば、数えられるほどわずかなトランジスターを搭載した初歩的ICが出現した半世紀前の状態に似ている。

量子ビット作製にシリコン・プロセスを活用

 ところで、量子ビットは、従来のコンピューターで用いられるビットのように“0”と“1”だけでなく、その中間の“重ね合わせ状態”を取ることができる。これまで少数の量子ビットの原理を検証するため、光学素子、イオントラップ、超電導素子、ダイヤモンド結晶(窒素-空孔複合体欠陥中心)など、さまざまな材料が試されてきた。いずれも大学研究室レベルでの研究であって、量産とはほど遠い。

 そんななか、量子ビットをマイクロ波ではなく、トランジスターで制御する技術が最近相次いで発表された。もしも高集積が可能なシリコン・プロセス技術で実装できれば300mmシリコン・ウエハー上に既存の半導体集積化技術を用いて量子ビット素子とその制御回路を実装し、いずれは超大規模量子プロセッサーの量産を目指せる。

 一方、通常のシリコンを用いた半導体素子は、現在のエレクトロニクスの基幹となるものであり、加工や集積化技術が確立されている。量子コンピューターの実現には量子ビットの数を大幅に増やす必要がある。このため、通常のシリコンを用いて、すでに確立された半導体集積化技術を利用した大量の量子ビット素子実装の実現が期待されている。

 量子コンピューターを構築するための鍵は、制御回路によって、量子ビットの初期化、制御、読み出し、結果の部分的な保存と量子エラーの修正を行うためのシリコン集積回路技術にある。しかし、シリコン基板上に量子ビットを形成しようとすると、母材となるシリコン中の核スピンが量子ビットの状態を乱す雑音源となることが課題になる。