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 近年、半導体産業では大型M&Aが次々と起こり、業界の勢力図は大きく変わった。ただし、持ち上がったM&Aの案件の中には、成就したものもあれば、断念したものも数多くあった。断念した理由としてよく挙げられたのが、独占禁止法への抵触と安全保障上の問題である。純粋なビジネス的な判断からの断念ではなく、各国政府の思惑がM&Aの成否に大きな影響を及ぼしているのだ。

 そもそも、M&Aを仕掛けた背景に、各国政府の思惑が見え隠れする案件すらある。「産業構造を一変させる大型M&Aの背景には、常に各国政府の思惑がある」。そんな都市伝説的陰謀論のような思考法で、あらゆる問題を考えることはできない。しかし、とりわけ米国や中国のような大国におけるハイテク産業の戦略的価値、なかでも半導体産業の価値が高まっている今、こうした各国政府の思惑を無視してビジネスを考えることができなくなっていることも確かではないか。場合によっては、米国企業とZTEの取引停止で見られるように、いち企業の中核ビジネスとそれに関連する取引先のビジネスの存続が危うくなる事態に陥る可能性もある。

 ZTEの取引停止事件をキッカケにして、あらためて日本の電子産業の地政学的立ち位置を考えている今回のテクノ大喜利。2番目の回答者は微細加工研究所の湯之上 隆氏である。同氏は、ハイテク産業、特に半導体産業での米中政府によるM&A阻止に向けた強権発動の動きをまとめ、両国の間で生きる日本の電子産業の企業がビジネスを行ううえで留意すべきことを考察した。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)  日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北−零戦・半導体・テレビ−』(文書新書)。趣味はスキューバダイビング(インストラクター)とヨガ。
【質問1】米中貿易摩擦、とりわけハイテク産業での摩擦で、日本企業にはどのような影響が及ぶと思われますか?
【回答】米中貿易摩擦の影響で、米ベインキャピタル率いる日米韓連合による東芝メモリの買収を、中国司法当局が認めない可能性があった。このようなケースは、今後、いつ起きてもおかしくない
【質問2】ZTEとの取引停止のような、ハイテク産業での米中の目に見えた制裁措置は、これからも続くと思われますか?
【回答】今後もさまざまな状況で起きるだろう。その背景には、2017年1月のホワイトハウスが公開した通称「オバマ・レポート」の存在がある
【質問3】日本企業は、大口顧客である中国企業の事業が突然停止する可能性に対し、どのように備えるべきだと思われますか?
【回答】世界情勢にアンテナを張り巡らし、常に、プランB、ラインCなどの代替案を準備しておく