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【質問1】世界の半導体サプライチェーンが分断されることで、どのような企業が追い風を受け、どのような機会を得ると思われますか?
【回答】業界2番手、3番手の企業に、リスクヘッジ要因として注目が集まるケースが考えられる

 一言で「サプライチェーンの分断」と言っても、大震災やコロナウイルス拡散など自然災害が原因の場合と、米中貿易摩擦のような政治的要因によるものとでは、対応策が異なるだろう。例えば東日本大震災のように、何の前触れもなく、突然、生産拠点や流通経路がダメージを受けたことでサプライチェーンが止まった場合には、事前の準備も交渉もできるはずなどない。当時は、あわてて別の選択肢を探し求めた企業がたくさんいたと思う。

 しかし、政治的要因で分断が発生する場合は「ある日突然」ということはない。色々な予兆もあれば交渉もあり、多くの場合、譲歩できる条件とできない条件を整理しながら戦略を立てることが可能なはずだ。

 台湾TSMCの米国アリゾナ工場建設も、米中貿易摩擦だけでなく、TSMCと台湾当局の間の不協和音が要因の1つになっている。さまざまな要因が複雑に絡み合った結果の決定であり、この件に関与した国や企業の担当者は多く、決定までにかなりの時間を要している。このため、関連企業は、事前に色々な準備や交渉を行ってきたはずである。

軍事用ICの製造は米国で行うべきというが

 元々TSMCは米国ファブレス企業を大手顧客に持っているため、台湾でなく米国で製造してくれ、という依頼は昔からあった。「軍事用途のIC製造は米国で行わないと情報管理上問題だ」などという政治家のコメントを聞くことがあるが、これまでTSMCの台湾工場で製造した米軍事用ICは山ほどある。そしてそのIC関連情報が台湾や中国の政府当局に筒抜けになっていた、ということは常識的に考えられない。

 TSMCに限らず、米インテル(Intel)や韓国サムスン電子(Samsung Electronics)などの顧客情報管理がいい加減なレベルだったら、彼らは業界トップの実績を誇る半導体メーカーにはなれなかったはずなのだ。今回の決定は、TSMC自身が「台湾よりも米国に新工場を建設した方が総合的に得策だ」という判断があったのだろう、と筆者は考えている。

 むしろ「分断」という意味では、中国ファーウェイ(Huawei)との商取引を米国政府がどこまで取り締まるつもりか、という点が気になる。同社は携帯基地局市場で世界トップ、スマートフォン市場で世界2位の実績を誇り、TSMCにとっても大手顧客の1社である。特にスマホ用のアプリケーション・プロセッサーの生産では5nm/7nmといった最先端プロセスを使わざるを得ないが、このような最先端SoCを量産できるのはTSMCだけだ。従来であれば、ファーウェイの半導体設計子会社であるハイシリコン(HiSilicon)がTSMCに製造委託するわけだが、TSMCはファーウェイ・グループの企業であるハイシリコンからの委託は受けないとしている。

ファーウェイが半導体の兵糧攻めで干上がることはない

 しかし、もし仮に台湾の独立系ファブレス・メーカーであるメディアテック(MediaTek)がハイシリコンの代役を引き受けたら、米国政府はこの商取引を取り締まれるのだろうか。メディアテックはファーウェイと何の資本関係もなく、米国政府とも距離がある。TSMCの大手顧客の1社としてスマホ向けSoCの製造を委託し、これをファーウェイに販売したとき、米国政府はメディアテックに対して何ができるのだろうか。「米国企業との取引を禁止するぞ」などと言っても、顧客が中国・アジアに集中する同社にとって、何のプレッシャーにもならないだろう。

 これはあくまでも「例えば」の話に過ぎないが、業界2番手、3番手の企業を活用することで、サプライチェーンを別の形にすることは不可能ではない、ということを筆者は申し上げたいだけである。