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 半導体業界には、「牧本の波」と呼ばれるトレンドがある。元 日立製作所で半導体事業の担当常務だった牧本次生氏が提唱した、「半導体業界では10年ごとに(提唱時には7年ごとだった)、標準化とカスタム化の潮流が交互にやってくる」というものだ。ここで言う標準化とは、大量生産する汎用的な標準チップをベースに応用機器開発を進めるということ。カスタム化とは、応用機器の仕様に合わせて、カスタムチップを開発することを指す。米Apple(アップル)が「Mac」に採用するという「Apple Silicon」はカスタム化の潮流に乗ったものだ。

 半導体チップ、特に最先端の製造技術を利用するチップの開発・製造には、とにかく巨額の資金が必要だ。設計者の確保、開発環境の整備、マスク作成、試作・テスト、量産などに、機器そのものの開発・量産に匹敵、いやそれ以上の投資が求められる。確かに、ソフトウエアだけでなく、ハードウエアも最適化して独自開発すれば、システムの価値は確実に高まることだろう。しかし、あまりのハイリスクに、誰もが採用できる価値向上の手段ではない。半導体の開発・製造に要する資金が巨額化し、牧本の波は、応用機器ごとに様相が異なる時代がやってきたのかもしれない。

 独自チップ開発が拡大していく潮流を見据えて、電子産業における開発と生産のフレームワークが今後どのように変わっていくかについて議論している今回のテクノ大喜利。2番目の回答者はMTElectroResearchの田口眞男氏である。同氏は、カスタムチップ開発がハイリスクになる要因を挙げ、現在それらがどのように緩和されてきているのか論じた。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
田口 眞男(たぐち まさお)
MTElectroResearch 代表
田口 眞男(たぐち まさお) 1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。メモリーセル、高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授、2017年4月より同大学の先端科学技術研究センター研究員。技術開発とコンサルティングを請け負うMTElectroResearchを主宰。
【質問1】独自チップ開発は、機器メーカーやIT企業の競争力を高めるための論点として、今後定着していくと思われますか?
【回答】独自チップを開発する流れは加速するが、事態は複雑で熟慮が必要
【質問2】独自チップ開発の動きは、パソコン、サーバー、スマートフォン、ゲーム機以外の分野にも広がっていくと思われますか?
【回答】自動車など数量が出る市場、セキュリティーに関係した市場などが考えられるが、ファッション市場も
【質問3】仮に、独自チップ開発の動きが拡大・定着することで、プロセッサーやSoCを扱う半導体専業メーカーのビジネスはどのように変わると思われますか?
【回答】 AIが救世主かも知れないが、同時に知財戦略を強めざるを得ないだろう