1990年代前半、米Intel(インテル)の「x86」プロセッサーの互換チップビジネスを集中的に取材テーマにしていた時期があった。その当時、Intelと米AMDなど互換チップ陣営の間で争われていた特許紛争が沈静化し、互換チップビジネスを堂々とできる状況になりつつあった。そして、ある日本の半導体メーカーの役員に「互換チップビジネスはしないのですか。成長疑いなしのパソコン市場で大きく成長すると思うのですが」と質問したことがある。その際の某社役員の答えは、「魅力的なビジネスだね。だが、君子危うきに近寄らずだ」というものだった。
経済合理性の観点からリスクがあるように思えず、その役員の答えが腑(ふ)に落ちなかったので、「“危うき”とは何を指しているのか」と編集部で聞いてみた。「米国政府からの圧力が高まるのを心配しているんだ。今DRAMでよいビジネスができているから、そこにミソがついたら困るということ」だった。当時は既にピークは過ぎていたが、日米半導体摩擦での厳しい対抗措置のトラウマがあったのだ。日本の半導体メーカーは、何と不自由な環境でビジネスを行い、何と残念な状態にあるのかと思った。しかし、そうして守ったDRAMビジネスも、後にその会社からなくなってしまった。
米国が進める製造業の復興の動きに、サプライチェーン上にいる日本企業がどのように対処していくべきか、そして世界の産業構造がどのように変わりつつあるのかを議論している今回のテクノ大喜利。4番目の回答者は元 某ハイテクメーカーの半導体産業OB氏である。同氏は、米国が半導体の製造を自国に置こうとする今、グローバルな視点から最適地で製造することが至上とされる時代は去り、日本の半導体産業を再興する好機が生まれていることを指摘している。
某社リサーチャー
