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 製造業では、市場が急成長する段階で、業界構造が垂直統合型から水平分業型へと移行する例が多い。パソコンやデジタル家電、スマートフォン(スマホ)など電子機器の分野では、台湾Foxconn Technology(鴻海科技集団/富士康科技集団)などEMS(電子機器受託生産サービス)が生産や開発を請け負ったことで、機器メーカーは商品企画とサービス開発に注力するのが当たり前になった。現在、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)の強いプラットフォームビジネスを支えているのは、こうしたEMSであるとさえ言えるかもしれない。同様に、自動車の分野でODMやファウンドリーの活用が広がることで、自動車業界の構造や付加価値のあり方が一変する可能性があるかもしれない。

 自動車ODMが力をつけることによる、近未来の自動車業界の姿の変貌について議論している今回のテクノ大喜利。2番目の回答者は、東京理科大学の若林秀樹氏である。同氏は、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代のクルマはITプラットフォーム上で活用する端末へと変化していくことを指摘。そのうえで、消費者に訴える付加価値がプラットフォームに帰着する状況下での、端末化したクルマを開発・生産していく合理的な体制を考察している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
若林 秀樹(わかばやし ひでき)
東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻 教授
若林 秀樹(わかばやし ひでき) 昭和59年東京大学工学部精密機械工学科卒業。昭和61年東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻修了。同年 野村総合研究所入社、主任研究員。欧州系証券会社シニアアナリスト、JPモルガン証券で日本株部門を立ち上げ、マネージングディレクター株式調査部長、みずほ証券でもヘッドオブリサーチ・チーフアナリストを歴任。日本経済新聞などの人気アナリストランキングで電機部門1位5回など。平成17年に、日本株投資運用会社のヘッジファンドを共同設立、最高運用責任者、代表取締役、10年の運用者としての実績は年率9.4%、シャープレシオ0.9、ソルチノレシオ2.1。この間、東京理科大学大学院非常勤講師(平成19~21年)、一般社団法人旧半導体産業研究所諮問委員など。平成26年サークルクロスコーポレーション設立、代表取締役。平成29年より、ファウンダー非常勤役員現職。著書に『経営重心』(単著・幻冬舎)、『日本の電機産業はこうやって甦る』(単著・洋泉社)、『日本の電機産業に未来はあるのか』(単著・洋泉社)、『ヘッジファンドの真実』(単著・洋泉社)、など。
【質問1】自動車ODMのビジネスは、今後成長すると思われますか?
【回答】エンジン車は一定成長するが、CASEでは成長パターンが異なる

 まず、自動車ODMの典型企業であるオーストリアのMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)の概要を見てみたい。同社は、自動車部品メーカー大手のカナダのMagna International(マグナ・インターナショナル)の子会社である。アニュアルリポートによると、ビークル部門を構成しており、同部門は総売り上げの17%を占め、収益性を示すEBIT(Earnings Before Interest and Taxes)率は2%である。これは、全社のEBIT率の6%より低い。また、M&A(合併・買収)で業績を伸ばしてきたことは、Foxconnと似ている。Magnaの全社の顧客は米General Motors(ゼネラル・モーターズ)が15%、ドイツBMWが14%など分散している。

 こうした状況を見ると、全てのビジネスがEMSであり、米Apple(アップル)への依存度が高いFoxconnとは、異なるビジネスであるように見える。むしろ任天堂向けに、電子部品も供給しつつ、EMSも行う、ホシデンのビジネスモデルに近いのではないか。

 なお、正確にはEMSとODMは異なるが、今回のテクノ大喜利の回答ではEMSトップのFoxconnと対比し、受託生産請負という意味で同義で議論する。実際には、程度の差こそあれ、EMSでも企画設計を行う。また、EMSのEはエレクトロニクスだが、エレクトロニクス以外も行うという場合が多い。

 CASE化により、自動車産業は大きく変貌し、ケーレツも影響を受け、自動車産業はこれまでの垂直統合から水平分業へ変わらざるを得ないだろう。こうした中、Magna Steyrは、EV(電気自動車)の開発生産ももちろん可能であるが、エンジン車が強く、既存のOEMメーカーなどとの関係が深い。その一方で、CASEのコネクテッド化で、GAFAのようなプラットフォーマーとの関係が重要になり、OEMメーカーやティア1メーカーだけでなく、自動車の自動運転を仕切るプラットフォーマーとの関係を深めることがより重要になる。その場合、対立関係にある双方を顧客に抱えることになり、Magnaの他部門、部品部門との関係が障害になるかもしれない。また、エンジン車向けは成長飽和の中での薄利多売化が進む。