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 安全なクルマを低コストで量産する技術は、一朝一夕に保有できるものではない。日本の自動車業界では、自社ブランドで製造する完成車メーカーを頂点にして、ケーレツ企業で部品レベルからクルマをつくり込む体制が不可欠だと考えられてきた(自動車業界では完成車メーカーをOEMと呼ぶので、以下、完成車メーカーの意味で「OEM」を使用する)。ところが、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)トレンドに沿ったクルマのあり方と構造の大変革が起き、欧州や中国では、抜本的な業界構造の変革が起きつつあるようだ。自動車の開発や生産を受託する自動車ODM(Original Design Manufacturing)の活用や、異業種から参入した企業によるこれまでとは異質なサプライチェーンの構築などが進んでいる。

 自動車ODMが力をつけることによる、近未来の自動車業界の姿の変貌について議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、ローランド・ベルガーの貝瀬 斉氏である。同氏は、具体的な例を挙げながら、欧州や中国などで起きつつあるクルマのサプライチェーンやバリューチェーンの変化を見通している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
貝瀬 斉(かいせ ひとし)
ローランド・ベルガー パートナー
貝瀬 斉(かいせ ひとし) 横浜国立大学大学院修了。完成車メーカーを経てローランド・ベルガーに参画。その後、事業会社、ベンチャー経営支援会社を経て現職。モビリティー産業を中心に開発戦略策定、事業ロードマップ構築、事業マネジメントの仕組みづくり、M&A支援など多様なプロジェクトを手掛ける。完成車メーカー、サプライヤー、商社、金融サービス、ファンド、公官庁など様々なクライアントと議論を重ねながら「共に創る」スタイルを信条とする。
【質問1】自動車ODMのビジネスは、今後成長すると思われますか?
【回答】開発領域だけでなく生産領域を含めて成長する

 ODMビジネスは今後、領域と出自で多様化し、それに伴い市場も拡大する。領域では、開発に加えて生産の受託も広がっていく。

 ODMの開発領域の機能は以前から、いわゆるエンジニアリング会社として既存OEMも多用してきた。特に近年、CASE関連の開発負担が重くなる中で、このような新規テーマに専門性を持つODMの活用が進んでいる。丸投げというよりも、共同開発に近い意味合いでのODM活用である。一方で、新規テーマにOEMの自社リソースを重点投下することで不足する工数を補完するため、既存テーマでのODM活用も広がっている。

 加えて、今後新たに広がっていくのは、車両の生産受託におけるODM活用である。以前から欧州では、少量生産車種を中心に外部に委託してきた。西欧には古くは馬車の生産を出自とする企業、東欧には軍需工場を出自とする企業などが存在する。これらに加えて最近は、車体構造が異なるEV(電気自動車)に特化した生産受託を手掛けるプレーヤーも出てきている。

 さらには、開発と生産をセットで受託したり、EVのプラットフォーム(パワートレインとシャシーを組み合わせた汎用的なパッケージ)まで含めて提供したりするケースもある。例えば、欧州の開発受託大手のドイツEDAGは、ボディー部品を手掛けるイタリアBaomarc Automotive Solutions(バオマーク・オートモーティブ・ソリューションズ)、生産ロボットを手掛けるドイツCLOOS(クロース)、生産ラインのデジタルエンジニアリングを手掛けるドイツSiemens(シーメンス)と組んで、EVプラットフォームの提供に取り組んでいる。特筆すべきは、EVプラットフォームという製品技術開発だけでなく、ラインなどの生産技術開発もセットで提供できることである。当然1社で対応できる領域には限りがある中で、異なる専門性を持った企業が組むことで、より大きな領域で業務を受託できる能力を整えている。

 また、以前から既存OEMにエンジニアリングサービスを提供しているODMだけでなく、異業種からの自動車ODMビジネスへの参入も広がっている。例えばiPhoneの生産受託で有名な台湾Foxconn(フォックスコン)は、台湾OEMのYulon Motor(裕隆汽車)と組んで、EVの開発受託と生産受託、EVプラットフォーム提供を手掛ける合弁会社を設立した。Foxconnの電子や制御に関する開発やICT業界におけるサプライチェーンマネジメントのノウハウと、Yulonの車両のハードウエア開発や生産におけるノウハウや設備を持ち寄ることで、EVにおけるエンジニアリングチェーンを広くカバーしている。

 このように、EVがトリガーとなり、OEMの委託意向の高まりとODMの受託領域の広がりも相まって、ODMビジネスは大きく成長すると考えられる。