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 近年の大きな潮流の一つに、力のある機器メーカーやIT企業、さらには自動車メーカーによる独自半導体チップの開発がある。半導体メーカーが開発し大量生産する半導体チップを使ったのでは他社に対する差異化や描いているイノベーションの創出が困難になるとして、独自チップの開発に踏み切る動きだ。米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)や中国のBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)の各社は例外なく独自チップを開発し、自動車メーカーでも米Tesla(テスラ)が積極的に取り組んでいる。

 ところが、日本の電機メーカーや自動車メーカーでは、一部の例外を除いて、驚くほど独自チップ開発に取り組む動きが鈍い。独自チップの重要性は国や地域を問わず共通だと思われるのだが、日本企業は海外の競合との競争に勝つ意志を失っているのだろうか。

 日本の半導体産業の再興・強化という目的に向けて、台湾TSMCによる日本での研究開発拠点設立にどのような意義、利用価値があるのか議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、Grossbergの大山 聡氏である。同氏は、TSMCの日本拠点設置は直接的には日本の半導体産業の再興につながるわけではないことを指摘。そのうえで、再興を目指すのならば、国内の半導体ユーザーによる独自チップ開発を推進することこそが重要であることを強調している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマン・ブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】TSMCが日本にR&Dもしくは生産の拠点を置くことによって、日本の半導体産業にはいかなるメリットが生まれると思われますか?
【回答】現実的には、あまりメリットは期待できない

 TSMCの2021年度の設備投資額は280億米ドル、実に3兆円という規模である。日本の半導体産業全体の設備投資がトータルで1兆円程度なので、随分と格差がついてしまったものである。

 日本政府がTSMCや韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に対して日本への誘致を画策している、という話を聞いたことがある。報道記事によれば「経産省は5G以降で必要になる先端半導体を国内で製造できる技術を確保するため、2019年度に1100億円の予算を計上し、今年度は第3次補正予算案で900億円を追加する」とのこと。だが、こんな端金で3兆円の設備投資を行う企業の誘致ができるはずもなく、「前工程は無理だから後工程にしよう」などと考えたのかもしれない。前工程にしろ後工程にしろ、TSMCにとって大手顧客も需要も存在しない日本に生産拠点を設置する意味などない、と筆者は考えている。しかしR&D拠点として、同社は3Dパッケージの開発拠点をつくばに設立する計画があるらしい(資本金は最大186億円)。

 このような拠点が日本に設置されれば、同社との関連を強化したいと考える日系企業にとって大きなチャンスであり、一部の企業にはそれなりのメリットが期待できるだろう。しかし「日本の半導体産業にとってどんなメリットがあるか」と聞かれれば、期待できるようなシナリオはなかなか思い浮かばない。

 今から30年ほど前の1990年前後であれば、日本は世界最大の半導体生産国かつ消費国であり、巨額の設備投資も行われていた。ところが、かつて半導体事業を社内に抱えていた大手電機メーカーの多くは「もう半導体など真っ平だ」とばかりに、半導体事業を次々と連結から切り離している。例外は東芝とソニーくらいだが、いずれもSoC/ロジックには注力しておらず、TSMCとの接点を重要視するようには思えない。

 経済産業省 商務情報政策局 局長の平井裕秀氏は、2020年12月に開催されたSEMICON Japan Virtualのキーノートの中で、「材料・製造装置からチップの開発・製造、さらにはそのユーザーまでを念頭に置いた広い視点からの日本の半導体産業戦略を再検討する必要がある。チップメーカーについては、日本に残されたメーカーを、純日本企業にこだわることなく、日本に拠点を置く企業すべてを対象に盛り上げていきたい。同時に、材料・製造装置メーカーをさらに強化していくための場も創出していく」と語ったそうで、半導体産業に長らく関わってきた筆者としては拍手喝采したいコメントだ。ただし、これに身を乗り出す日系大手電機メーカーがいるかと言えば皆無だろう。残念ながらそれが現実である。