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 2021年初頭から顕在化してきた半導体不足が、あらゆる応用業界の業績に大きな影響を及ぼす可能性が出てきた。既に、業界を超えた半導体の争奪戦が起きているような状況だ。

 コロナ禍によるリモートワークの拡大や巣ごもり需要の増大によって、多様なデジタル機器の需要が急増。その結果、半導体の生産能力の多くが、こうしたデジタル機器向け半導体チップの生産に振り向けられることになった。そのあおりを最初に受けたのが自動車業界である。一時は、コロナ禍による急激な需要減による減産を見込んでいた自動車業界だったが、世界の需要は急回復。自動車メーカー各社は増産へと舵(かじ)を切ったが、半導体メーカーは車載向けの急な増産要請に応えられない状況になった。その結果、減産を余儀なくされた自動車メーカーが続出した。

 今回の半導体不足にまつわる一連の出来事によって、現在の半導体サプライチェーンでは、急激な市場の変化に柔軟・迅速に対応できない状態にあること、特定の応用分野での需給バランスの急変が他分野へも伝搬する可能性があることが明らかになった。つまり、いつ半導体不足に陥るか分からない状況が常態化する可能性があるということだ。今回のテクノ大喜利では、市場環境の急激な変化による半導体不足に備えるための方策を議論した。最初の回答者は、Grossbergの大山 聡氏である。同氏は、さまざまな機器に欠かせない部品である半導体では、急な増産が困難なことを強調。不足状況の回避や解消には、ユーザーとの連携などが必要不可欠であることを訴えている。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマン・ブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】コロナ禍が明けた後、現在の半導体不足の状態は解消すると思われますか?
【回答】思わない。コロナ禍と半導体不足に直接の因果関係があるとは思っていないから

 世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2020年の世界半導体市場は前年比で約6.9%増の4404億米ドル。2021年も同8.4%増とプラス成長が予測されている。「この状況下でプラス成長とは、コロナ禍は半導体業界にとって追い風なのか」などという声も耳にするが、そうではない。2020年は20%以上の成長が期待できたのに、コロナ禍が原因でたった6.9%の成長にとどまった、というのが筆者の見解である。

 世界中の人々が外出を控え、何でもかんでもオンラインサービスに頼ろうとすれば、「クラウドシステム」の需要は急増する。従ってコロナ禍において、GAFAや米Microsoft(マイクロソフト)などのクラウドサービスはいずれも絶好調だったが、これらの企業も後半にはデータセンターへの投資を抑え気味にするなど、ずっと半導体を買い支えていたわけではない。人の流れが止まれば経済も停滞し、モノが売れなくなる。電子機器の売り上げにも悪影響があり、それが半導体の売り上げを押し下げる原因になったことは明らかである。

 2020年も後半になると、前半に抑え過ぎた需要の反動が起こり、売れなかったモノが急に売れるようになる。自動車はその典型だろう。パソコンやスマホなどに比べてサプライチェーンが複雑な自動車は、需要の急激な変化に対して部品の供給が十分に対応できないケースがあり、半導体不足の問題が最も注目された分野になってしまった。特に車載MCUとパワー半導体の不足が問題視されているが、どちらも年内に問題が解決するとは思えない。

 まず車載MCUは、台湾TSMCが車載向けの製造比率を引き上げる努力をするなど、可能な限りの応急処置を取っている。このため、当初は年央あたりには不足が解消できるのでは、などと期待していたが、3月に発生したルネサスエレクトロニクスの那珂工場の火災が新たな問題として浮上した。同社は車載MCU市場で3割以上のシェアを誇っており、そのメイン工場の完全復旧には半年かかる、との見方もある中、この分野における品不足が2022年まで継続する恐れは十分にある。

 またパワー半導体は、クルマの電動化に伴い、車載需要が増える傾向にあるが、300mmウエハーでの量産を行っているのは現在ドイツのInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)だけで、他社は老朽化の進んだ150mmや200mmラインで対応している。米ON Semiconductor(オン・セミコンダクター)や伊仏合弁のSTMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)が300mmでのパワー半導体量産を計画中である。ただし、同様にこの分野で高いシェアを持つ三菱電機、富士電機などは慎重な姿勢を維持したままである。もともと慢性的な品不足になることが懸念されていた分野なだけに、こちらも2021年内には問題が解決できそうもない、と筆者は予測している。