日本の半導体産業は、1990年代半ばから徐々に衰退の道をたどった。それまでは、特に製造技術やメモリービジネスでは、まぎれもなく世界をリードする立場にあった。また、設計やロジックでも存在感があった。それが今では、半導体不足に翻弄され、自国の基幹産業である自動車産業の安定したビジネスを支えることすらできない状態になってしまった。
自動車のあり方を一変させるCASEトレンド、あらゆる業界に革新をもたらすデジタルトランスフォーメーション(DX)などが進むにつれ、半導体の戦略的価値はこれまでにも増して高まっていくことだろう。現在の半導体不足は、半導体産業を持たざる国の心もとない未来の姿を先取りして見せている。
市場環境の急激な変化による半導体不足に備えるための方策を議論している今回のテクノ大喜利。4番目の回答者は、現在、経済産業省の半導体デジタル産業戦略検討会議のメンバーでJEITA 半導体部会 政策提言タスクフォース 座長も務める東京理科大学大学院の若林秀樹氏である。同氏は、危機感が募る今は、日本の半導体産業の新生を推し進める最大・最後のチャンスであると訴えている。そして、これからの日本が実践すべき、「総合ファウンドリー構想」と呼ぶ新たな価値を持つ半導体ビジネスの姿を提案した。
東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻 教授

本稿では、半導体デジタル産業戦略検討会議やJEITA、東京理科大学MOTの見解ではなく、あくまで大学教授・アナリスト・研究者としての個人的見解を示す。現在の半導体不足は、コロナ禍だけの問題ではない。供給面、需要面それぞれで整理して考えなければならない。コロナ禍は、供給面ではマイナスだが、需要面ではプラスとマイナスの両面がある。マイナス面は景気減速の影響だが、テレワークによるオンライン化関連需要の喚起などプラス面も多い。
供給面では、コロナ禍よりも米中摩擦の影響が大きく、度重なる火災の発生なども悪影響に拍車を掛けている。米国による制裁によって中国SMICのラインが使えず、台湾TSMCなど台湾ファウンドリーにチップの製造依頼が集中した。また、コロナ禍で新工場の装置搬入が遅れるなど、立ち上げ遅延もあった。2020年10月の旭化成エレクトロニクス(AKM)、2021年2月の台湾 欣興電子(Unimicron Technology)、同年3月のルネサス エレクトロニクス 那珂工場の火災、さらには台湾TSMCの水不足、電力不足、労働者不足、土地不足、人材不足の“5欠”やFab12の火災など、大きな影響を及ぼす出来事が次々と起きた。
需要面では、コロナ禍でのテレワークにおいてZoomなどの活用が広がり、PCとそこに搭載するメモリーの需要が増加した。加えて、スマホ需要も意外と健闘した。2020年秋以降には、自動車生産が急激に立ち上がり、サプライチェーンの乱れや需給のタイト化を懸念して、仮需が発生。流通側が多めに発注して、在庫を増やした。
このため、コロナ禍が一巡した後も、米中摩擦の中で、サプライチェーン改革が進み、中国や地政学リスクが大きい台湾ファウンドリーに依存しない体制ができるまでは、混乱が消えないことだろう。需要面では、テレワークが広がる流れは不可避である。
ただし、現在の逼迫(ひっぱく)の度合いは、この半年の火災などの影響やサプライチェーンの乱れによるもので、21年秋以降は少し正常化するのではないか。