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 工場や社会インフラ、物流の現場からデータを吸い上げ、それを蓄積することで作るビッグデータを活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に役立てようとする動きが活発化している。ただし、エッジから吸い上げたデータをそのままクラウドに転送して解析するのは効率的とは言えない。このため、現場で高度な人工知能関連処理を行うエッジコンピューティングが、より効率的で効果的なIoTシステムを構築するための不可欠な要素になりつつある。

 エッジで、より少ない電力で高度な処理を実行できれば、IoTの利用シーンは広がり、その効能も高まる。多くのIT企業が、こうした用途を想定した独自の半導体チップを開発するようになった。もはや、ソフトウエアだけでは大きな差異化はできず、標準仕様のハードウエアでは実現できないシステム性能を実現することこそが、各社の技術開発の争点になってきている。

 パナソニックによる米Blue Yonder(ブルーヨンダー)の買収と、日立製作所による米GlobalLogic(グローバルロジック)の買収を機に、M&Aによって産業分野でのビジネス拡大に挑む老舗電機メーカーの勝ち筋と内在するリスクについて議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は服部コンサルティング インターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、パナソニックや日立がB2Bの情報処理の領域で世界の並み居る競合に勝ち切る競争力を養いたいのならば、ソフトの強化だけでは足りないことを指摘。独自チップ開発なども含めたハード開発とソフト開発の同時強化が欠かせないことを強調している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
【質問1】パナソニックや日立製作所による今回の買収を、どのように評価しますか?
【回答】 DX志向は間違ってはいないが、手ごわい競争相手が多く、ソフトだけでは差異化は難しい

 日本の電機メーカーは、かつて世界のDRAM生産シェアの8割以上を占めていた。その後、DRAMのシェアを韓国勢に奪われると、皆次々とシステムLSI(ロジックSoC)に移行。ところが、DRAMの成功体験が災いしてビジネスモデルの異なるSoCビジネスはうまくいかなかった。そこで各社は、収益が乱高下するボラティリティーの高い半導体はこりごりとばかりに次々と撤退して、安定しているB2Bインフラ事業に相次いでシフトした。

 その後、右へ倣えで、ものづくりからサービス業への転換を図りつつあり、今度は、顧客のDXを支援するソフトウエアビジネスに参入し、次々とIT企業を巨額買収する気配である。DXは、急成長するメガトレンドであるわけだから間違った選択ではない。しかし、手ごわい競争相手が多く、競争が激烈な分野であり、簡単には勝てそうにはない。

 日立は顧客のDXを支援するエンジニアリング企業であるGlobalLogicを約1兆円、パナソニックはサプライチェーンマネジメント(SCM)を可視化・自律化するソフトウエアを手掛けるBlue Yonderを約7000億円で、それぞれ買収すると発表したが、株式市場の反応は冷ややかだ。

 投資関係者の常識からは、各社の市場価値に対して買収価格は高すぎるということだろう。両社とも喉から手が出るほど欲しいのを見透かされ、高額で買収したのだろう。しかし、買収額が高いか安いかは、費用対効果次第だ。つまり、この買収により収益が大きく増えればよいが、失敗に終われば半額で買収したとしても高い買い物ということになってしまうからだ。

 株価下落のもう1つの理由は、顧客のDXに向けたソフトウエアベースのサービス提供分野では競争相手が多く、勝算のシナリオがはっきりとは見えないということだろう。日立は、「日立独自のIoT基盤である『Lumada(ルマーダ)』のグローバル展開を加速するため時間を買った」(同社の東原敏昭社長)というが、Lumadaが競争相手の少ない日本で受け入れられたとしても、世界で受け入れられるかは未知数だ。パナソニックについては、どのようにシナジー効果を上げるのか不明な部分が多い。

 産業用ITソリューションビジネスでは、ドイツのSiemens(シーメンス)や米国のGeneral Electric(ゼネラル・エレクトリック)のようなこの分野の先進企業が君臨している。米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)のクラウドセールス部門のようなプラットフォーマー、さらにはコンサルティングに軸足を置くAccenture(アクセンチュア)など、それぞれ特有の強みを持つ多くの競合企業が群雄割拠している。

 質問3の回答に後述するが、ハード(あるいは「モノ」)とソフト (あるいは「コト」)はクルマの両輪であり、ITのプラットフォーマーは、半導体技術者を多数募集し、こぞって独自のAI(人工知能)チップやプロセッサーチップを開発して、そのうえで独自のソフトウエアを走らせて差異化を図ろうとしている。半導体を切り捨ててしまった日本の電機メーカーがソフトウエアだけで勝負に出て、果たして勝てるのだろうか。