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 日本の電子産業には、世界市場を一時期席巻した強い日本製品が数多くあった。テレビなどの家電製品や携帯電話、半導体、液晶パネル、太陽光パネル、バッテリーなどはその代表格だろう。

 ところが残念なことに、一時代を築いたものの、世界での競争力を長期にわたって維持することができなかった例が目立つように感じる。もちろん、日本製品の中にも長期にわたって強みを維持し続けている分野はある。チップ部品や家庭用ゲーム機、半導体製造装置などは、その代表例だ。しかし、最初からビジネスとしての芽が出なかったのならば諦めもつくが、大きな存在感を示す時期がありながら、衰退の憂き目に会う分野が多いのはなぜだろうか。

 海外には、日本が短期覇権で終わった分野でも、長期覇権体制の確立に成功した例がたくさんある。米国が得意なITや先端半導体チップ、韓国のメモリーや携帯電話、家電製品などである。台湾のファウンドリー(半導体受託製造)やEMS(電子機器製造受託サービス)のように独自路線で長期覇権を握るところもある。これらは、長期覇権を握れなかった日本企業とは何が違ったのだろうか。

 現在、世界中で自国の製造業、とりわけ電子産業周辺を強化しようとする動きが出てきている。日本も同様だ。そこで今回は、日本が長期覇権体制を維持できる分野を育成するための視点などについて議論した。最初の回答者はGrossbergの大山 聡氏である。同氏は、日本企業の中で長期にわたって強い事業を継続できている例として東京エレクトロンと村田製作所に注目。これらの企業の共通点とそこから学べることを示唆した。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】長期にわたってビジネスの強みを維持できない、日本企業の本質的な弱みがあるとすると、何だと思われますか?
【回答】事業よりも企業を重要視する考え方

 これまで世界市場を一時期席巻した強い日本製品として、テレビなど家電製品、携帯電話、半導体、液晶パネル、太陽光パネル、バッテリーなどが挙げられる。しかし、いずれも総合電機メーカーの中の一事業部として実績を上げたものだ。

 今ではルネサス エレクトロニクスのような半導体専業メーカーも存在するが、同社ももともとは日立製作所、三菱電機、NECの半導体事業部において事業が継続され、後に連結から切り離された、という経緯がある。同社に限らず、日本においては、総合電機メーカーの一部門として実績を上げたものの、強みを維持できないと判断された結果、連結から切り離される、という事例が非常に多く存在する。

 総合電機メーカーという業態は、「すべての事業が好調」ということもなければ「すべてが不調」というケースもまれである。一部の好調な事業が全体の連結業績を支える、というコングロマリットの状態になっていることが特徴である。これは企業としての長期安定化を図る上ではメリットを発揮するが、1つの事業を強化することには向いていない。「複数の事業間のシナジー効果を狙う」などというコメントが総合電機メーカー経営陣から聞かれることは多いが、そんなものが発揮される事例はほとんどない。むしろ社内の経営資源が分散することによる「コングロマリット・ディスカウント」(株価の低評価)が懸念されるのが常である。

 家電製品、携帯電話、半導体、液晶パネル、太陽光パネル、バッテリーなど、かつて日本企業が得意としていた分野の多くは、今ではその分野における専業メーカーが世界をリードしている。例外と呼べるのは韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)くらい。進化・変化の激しい市場分野において、その分野で勝てなければ会社がつぶれてしまう、という専業メーカーの方が危機感は強く、経営資源も十分に注力させることができる、という強みがある。

 日本企業が負けたのは総合電機メーカーだから、という主張はやや短絡的に聞こえるかもしれないが、専業メーカーに比べて危機感や経営資源集中で後れを取ったこと、「事業」よりも「企業」を重要視したことが事業の弱体化につながったことは否定できないだろう。