どんな企業にも、出世しやすい部署と出世しにくい部署というものがある。組織内で出世していくためには、社内での人脈も大切かもしれないが、上司が高評価しやすい成果を出せる機会が多い仕事をしているかどうかというのも大切な要素になるだろう。
こうした観点から見ると、メーカーにおける研究開発部門など理系職場は、意外にも企業での出世には不利な部署かもしれない。開発責任者としてヒット商品の開発に携わったといった華々しい成果を上げられることもあろう。しかし、多くの場合には、何らかの成果が出るまでに長い時間がかかり、しかも成果自体も企業の売り上げや利益の向上にどのような寄与があるのかいまひとつ分かりにくいことがほとんどだ。営業でトップの成績を上げたとか、大幅なコストカットに成功したといった成果の方が、人事権を持つ経営者の視点で見ればよほど分かりやすい。
これまで一時代は築くものの、世界での競争力を長期にわたって維持できない例が多かった日本の電子産業が、長期覇権体制を維持するための方策を議論している今回のテクノ大喜利。2番目の回答者は東京理科大学大学院の若林秀樹氏である。同氏は、日本企業が長期にわたる強い事業を育成できない根源には、技術を理解できない経営者、事業に無関心な技術者が多く、技術を基にしたイノベーションの創出が困難な状況にあると指摘。人材育成の視点を刷新することの重要性を説いている。
東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻 教授

確かに日本企業には、ハードウエアの事業にも、ソフトウエアの事業にも、一発屋体質がある。せっかく一発、ヒットを当てたのに連打がなく、成功をパターン化、構造化できず、消え去ったベンチャーもあった。日本の電子産業でも、DRAMや液晶パネル、電池、ケータイ、ノートPC、テレビなど、事業が継続して成長できない例が多い。
日本企業が長期にわたって強さを発揮している分野も多い
その一方で、そうでない例も多い。カシオ計算機などの電卓/電子辞書、ソニーや任天堂のゲーム機は継続的に強い。また半導体でも、キオクシアのNAND型フラッシュメモリーは健闘しており、ソニーの画像センサー、ルネサス エレクトロニクスのクルマ向けマイコン、村田製作所やTDK、日本電産をはじめとする電子部品業界でも存在感が強い。また、電子顕微鏡は長期にわたり、日本電子が強く、白物家電ではダイキンのエアコンは世界市場で存在感がある。
他の業界では、巨大市場であるクルマでは、なお健闘しているし、成熟あるいは衰退傾向市場ではあるが、コピーやプリンターなどのOA機器やデジタルカメラで、キヤノンなどがシェアを維持している。
成長分野でも、半導体製造装置は依然として、前工程では東京エレクトロンが健闘しており、後工程ではアドバンテストやディスコがトップ企業である。半導体関連素材や化学産業でも、信越化学工業、SUMCO、JSRなど、日本企業がトップを独占している分野は多い。
また、経済産業省が「GNT2020」としてリストアップするように、多くのグローバルニッチトップ(GNT)企業が存在する。