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 世界史などを学ぶと、極めて強大な力を誇る国が衰退・滅亡していくのには一定のパターンがあることが分かる。自国の強さに慢心して時代の変化に無関心になり、自国の価値観や作法に固執し、内部抗争にまい進して自滅するというものだ。健全な状態の巨大な国が、より強い国に滅ぼされるという例はほとんどない。こうした歴史を反面教師と捉えて、慢心することなく常に危機感を持ち続けることができれば、長く強大な立場を維持できると言えるのではないか。

 これまで一時代は築くものの、世界での競争力を長期にわたって維持できない例が多かった日本の電子産業が、長期覇権体制を維持するための方策を議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は元 某ハイテクメーカーの半導体産業OB氏である。同氏は、電子産業の中の特定分野で長期覇権体制を維持することに成功している企業例として、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と東京エレクトロンを挙げ、両社の企業文化ともいえる危機感について語った。さらに、米Facebook(フェイスブック)は、その覇権体制が曲がり角に差し掛かっていることも指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
半導体産業OB(はんどうたいさんぎょうOB)
某社リサーチャー
半導体産業OB(はんどうたいさんぎょうOB) 半導体産業をはじめとする電子産業全般で豊富な知見を持つ某ハイテクメーカーのOB。某国公認会計士でもある。現在は某社でリサーチャーを務め、市場の動きをつぶさにウオッチしている。
【質問1】長期にわたってビジネスの強みを維持できない、日本企業の本質的な弱みがあるとすると、何だと思われますか?
【回答】こんな悲惨な環境で覇権企業が出てくるはずがない

 現在の日本の電子産業の企業は、はっきり言って、問題外、論外。

 バブル崩壊後、経済成長が止まり、世界に冠たる企業や産業を全く生み出せなかった日本、既存企業が衰退していくばかりの日本……。対照的に、米中からは新しい時代を背負う巨大な企業が次々と誕生している。これは、必然が生み出した結果であり、そして、それに対する問題意識が欠如していたどころか、率先して、事態を深刻化させることばかりやっていた日本社会にも問題がある。

 今からでも、ここに掲げる問題点に正面から向き合って、国を変えようという憂国の士が現れないだろうか。

(1)人材の払底。組織と社会の基は人材であり、高い知性と学力を持ち、勤勉な日本のビジネスマンが日本のハイテク企業と社会を支えてきた。今や、若年人口は減少し、ゆとり教育で学力は低下、働き方改革は労働生産性の向上が目的だったはずが、早く帰宅することが目的となり、勤勉であることが害悪と見なされるようになり、そして貴重で優秀な人材はハイテク業界を目指さなくなった。

(2)技術流出。海外企業で先進技術を学んだ技術者を自国へ呼び戻す中国の「海亀政策」が米国で問題になり、中国人留学生や従業員による技術の流出に米国政府がこれまでになく目を光らせているのに、日本人は、自国の企業はターゲットになっていないと思っているのだろうか。理解に苦しむ。

(3)横並び思考。他者と同じ戦略では利益が出ない。そして、先行者が圧倒的に有利で、「Winner take All」といわれているのに、他社の動向に倣った経営方針で良しとする思考形態が散見される。これは、無条件で欧米の経営手法をありがたがる企業文化風土と同様に、大きな害悪を生み出している。ちなみに、他社と同じことをやるのが必ずしも悪いわけではない。その場合は、キヤノンのように、徹底的にコスト競争力と製品開発サイクルを極めて、後発であっても、後ろから先行者を押しつぶすという究極の2番手でないといけない。

(4)型にはまりたがる思考。ビジネスモデルの教科書を読んだことがあるのか、と思うくらい、日本の経営者は、権威のある人がいったことをうのみにしたり、過去の成功事例に囚(とら)われたり、その結果「継続投資が利益を生む」「日本に足りないのは意思決定の速度と投資規模」などと、経営を法則化したり型にはめたりして、思考停止に陥ることが多すぎる。ビジネスモデルの教科書の結びは、「目を見張るような素晴らしく斬新なビジネスモデルも、数年後には陳腐化し、別のプレーヤーに市場を奪われ……」という話になるのだが。柔軟性を放棄し、思考することをやめた企業に未来はない。米Intel(インテル)でさえ、そのわなから逃れられなかったのだから。