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 実績のある事業を捨て去ること、中核事業の内容と進め方を変えること、成功体験を拭い去ること……。多くの企業にとって、これら前例にない変革を伴う戦略や施策を取ることは極めて難しい。大企業では、むしろ前例を根拠に挑戦的取り組みに異を唱える方が、よほど周囲の理解も得やすく簡単に合意が得やすいだろう。ただし、どんな業界・業種でも、ビジネス環境は確実に変化していく。それまでのビジネスを何も変えずに乗り切ることができるはずがない。

 これまで一時代は築くものの、世界での競争力を長期にわたって維持できない例が多かった日本の電子産業が、長期覇権体制を維持するための方策を議論している今回のテクノ大喜利。4番目の回答者はアーサー・ディ・リトル・ジャパンの三ツ谷翔太氏である。同氏は、大企業でありながら果敢に変革に取り組んで長期にわたる強い事業体制を築くことに成功した例としてドイツのSiemens(シーメンス)を挙げ、同社から学べることを指摘した。さらに同氏は、ビジネス環境が劇的に変化する自動車業界の企業が強みを維持していくための視点も示唆している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
三ツ谷 翔太(みつや しょうた)
アーサー・ディ・リトル・ジャパン パートナー
三ツ谷 翔太(みつや しょうた) 世界最初の経営戦略コンサルファームであるアーサー・ディ・リトルにて、製造業やインフラ産業に対するイノベーション戦略の立案・実行支援、ならびに官公庁に対する産業政策の立案支援等に従事。昨今はカーボンニュートラルなど、複数業界を巻き込んだ新たな社会システムの創出に注力。主な著書に、2040年に向けた日本の社会・産業・企業の変革方向性を提唱した「フラグメント化する世界 ―GAFAの先へ―」「令和トランスフォーメーション -コミュニティー型社会への転換が始まる-」など(いずれも日経BP)。
【質問1】長期にわたってビジネスの強みを維持できない、日本企業の本質的な弱みがあるとすると、何だと思われますか?
【回答】オペレーションエクセレンスの追求という過去の強み

 企業における本質的な弱みは、これまでの成功を支えてきた強みから生じることが多い。その顕著な例が、「一時代を築いたものの、世界での競争力を長期にわたって維持できない」というケースだろう。

 特に製造業においては、高度成長期以来の成長を支えてきた要因は、徹底的なオペレーションエクセレンス(効果・効率)の追求にある。それは、日本企業の組織風土や日本人の特性にも根差したものであろう。その結果として、DRAM、液晶パネル、太陽光パネル、カーナビゲーションシステムなどはかつて世界の覇権を押さえてきた。しかし、その後の顛末(てんまつ)は誰もが認識する通りだ。

 競争環境は常に変わる。事業や技術の成熟の中で改善による効用は飽和してくるし、また、グローバル化の中で技術は容易に他国にスピルオーバー(波及)していく。結果として、オペレーションエクセレンスが競争優位を構築してきた領域は、徐々に資本投資力がものをいう領域になりがちだ。

 さらに、近年はアーキテクチャーそのものを転換するようなイノベーションによって、市場や付加価値のありかそのものが変わるケースも多い。カーナビ専用機に対するスマートフォンアプリはその典型例である。また、太陽光パネル普及とともに、その付加価値が、発電から調整側(エネルギーマネジメントなど)にシフトするといった例もある。デジタル×グリーンがイノベーションを駆動する今日において、このような転換事例はさらに増えていくだろう。

 つまり、かつての日本企業を支えてきた強みが、“成功の逆襲”として日本企業の弱みになりつつある。