電子産業には、過去の技術・ビジネスの常識を覆すイノベーションを起こすことで、産業構造自体を変えてしまうほどのインパクトを与え、しかも長期覇権体制の構築に成功した企業がいくつかある。パソコンにおける米Microsoft(マイクロソフト)やスマホでの米Apple(アップル)は、その代表例である。そして、半導体産業では、自社ではチップを設計せず、製造に徹するファウンドリーというビジネスモデルを確立し、多くのファブレス半導体メーカーが生まれ育つ素地をつくった台湾TSMCがその例であろう。これらの企業は、単にイノベーションによって覇権体制を築いただけでなく、その立場を長期にわたって維持できている点でも共通している。長期覇権に成功した理由は何なのだろうか。
これまで一時代は築くものの、世界での競争力を長期にわたって維持できない例が多かった日本の電子産業が、長期覇権体制を維持するための方策を議論している今回のテクノ大喜利。5番目の回答者は服部コンサルティングインターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、TSMCが長期にわたって強いビジネスを営むことができている理由として、ビジネスモデルを何度も変更して、顧客の目線に合わせたサービスを作り上げている点を挙げている。
服部コンサルティングインターナショナル 代表

今回のテクノ大喜利のお題である「日本の電子産業に潜む一発屋体質」には、いささか違和感を覚えざるをえない。日本勢は、決して意図して一発屋体質になっているわけではない。アナログ時代には、外国勢を寄せ付けない日本人の属人的知恵である暗黙知に基づく擦り合わせを強みとして、長期にわたり日本企業はその強みを維持してきた。しかし、デジタル時代に入っても、多くの企業は過去のアナログ時代の成功体験から抜け出せずにいる。デジタル化は、アナログ時代のような暗黙知に基づく部分最適の擦り合わせを骨抜きにしてしまった。全体最適を目指すIoT/AI(人工知能)の進展による非連続な改革に、多くの日本勢は追随できずに弱体化しつつある。
しかも、日本企業がガラパゴス国内市場で成功する中、世界を見据えたマーケティング力のある外国勢がゲームチェンジャーとして登場。スピード感をもってデファクトスタンダードを狙った世界に売れる製品を上市するようになると、日本勢の強みが弱みになってしまった。
ガラケーと自虐的に呼ばれる携帯電話機を例に取ると、横並びの日本企業がややこしい日本語入力や日本独自の機能で外国勢を寄せ付けず、適度な大きさの日本国内市場では外敵もおらず共存共栄できた。しかし、2007年に、使いやすいスマートフォン(スマホ)が、世界標準を狙って世界市場にマーケティングし始めると、ガラケーの成功体験が災いし、スマホへのメガトレンドに乗り遅れてしまい撤退が相次いだ。
確かに撤退は相次いだものの、日本勢は決して一発屋だったわけではない。むしろ米Apple(アップル)こそ、一発逆転ホームランを狙ったということだろう。ただし、Appleはそれに甘んじることなく、毎年、ソフトウエアだけではなくアプリケーションプロセッサーやカメラをはじめ、ハードウエアでも最新技術を駆使し、技術革新を継続することでライバルに差をつけている。常にライバルに差異化するためビジネスモデルを繰り返し見直している。
かつて日本勢が圧倒的な強みを発揮していたDRAMも、液晶パネルも、太陽光パネルも、バッテリーも、LED照明も、世界を見据えたマーケティング力を持ったゲームチェンジャーが登場し、デファクトスタンダードを目指して世界に向けて拡販した。世界市場を舞台にすることで、スケールメリットによるコスト低減も図れた。いずれも日本勢は一発屋体質で事業を行ったわけではなく、意に反して長期にわたるビジネスを維持できなかっただけだ。成功例として挙げられる日本製ビデオゲームコンソールや日本製半導体製造装置の成功は、グローバルマーケティングによる世界のデファクトスタンダード化によるところが大きい。