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 定年まで勤め上げたら、現役世代に知識やスキルを継承して仕事をバトンタッチして引退……。少子高齢化が進む日本では、これまで当たり前のように繰り返されてきたそんな世代交代が、見直される可能性が高そうだ。

 ところが、人材の流動性が低い日本型雇用と社内のシニア人材、特にエンジニアの相性は、必ずしもよいわけではない。大企業であっても、扱う商品やサービス、それを開発するための分野が大きく変わる時代になった。それまで携わってきた技術分野で得た知識、スキルが、自社の将来の成長に不要となってしまったエンジニアも多くいる。

 その一方で、シニア世代の人材の経験や知見、スキル、土地勘、人脈などを生かして、将来の新ビジネスや新商材を生み出したいと考える産業も増えている。異分野技術の導入が求められている自動車や、過去に失った技術の取り戻しが望まれている半導体はその代表例だ。ただし、老害で若い新鮮な発想を邪魔したり、古い手法を強要したり、上から指図するだけで自らは動かないのでは、シニア人材の存在価値はマイナスにしかならないだろう。

 今回のテクノ大喜利では、特に電子産業の技術畑のシニア人材にフォーカスして、時代が求めるシニア人材の活用法について議論した。最初の回答者は、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの三ツ谷翔太氏である。スタートアップ企業といえば、米Google(グーグル)や米Facebook(フェイスブック)などの成功例の印象から、若いアイデアを基に立ち上げられるITビジネスを思い浮かべがちだ。同氏は、現在、ものづくり系のビジネスに多くのスタートアップが生まれる素地があり、そこにはシニア人材が活躍できる場が多いことを指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト
三ツ谷 翔太(みつや しょうた)
アーサー・ディ・リトル・ジャパン パートナー
三ツ谷 翔太(みつや しょうた) 世界最初の経営戦略コンサルファームであるアーサー・ディ・リトルにて、製造業やインフラ産業に対するイノベーション戦略の立案・実行支援、ならびに官公庁に対する産業政策の立案支援等に従事。昨今はカーボンニュートラルなど、複数業界を巻き込んだ新たな社会システムの創出に注力。主な著書に、2040年に向けた日本の社会・産業・企業の変革方向性を提唱した「令和トランスフォーメーション -コミュニティー型社会への転換が始まる-」「フラグメント化する世界 ーGAFAの先へー」など(いずれも日経BP)。
【質問1】いま、電子産業出身のシニア人材の活躍に対する期待が、特に高まっている産業・業種はどこだと思われますか?
【回答】ものづくり系スタートアップ

 少子高齢化が進む日本においては、シニア人材の活躍の場を社会・産業の中でいかに創っていくかはますます重要な論点になっていくだろう。電子産業出身のシニア人材(特にエンジニア)は、電子化が進む自動車業界、需要が急増する半導体産業などで、再雇用を含めた期待が高まっているようにも感じる。

 今後に向けて、筆者としてもっと活躍を期待したい場はスタートアップだ。従来、スタートアップといえばデジタル系が多かったが、近年はものづくり系のスタートアップが増えている。ロボティクスやウエアラブル(ヘルスケア含む)、IoTデバイス、3Dプリンター、はたまた宇宙関連など、例を挙げればきりがないほどだ。日本の強みでもあるものづくりに立脚したスタートアップの創出は、日本の産業発展の観点からももっと盛んになってもよい。

 しかしながら、デジタル中心に発展してきたスタートアップ・エコシステムにおいては、意外とものづくりに関する知見保有者が欠けている。若者が起業しようとしても、大学の理工学部での経験がそのままものづくりに生かせるわけではない。設計や品質管理のプロセスの作り方や、ものづくりにおける投資の考え方などはデジタルとも異なる。したがって、ここにシニア人材の貢献可能性がある。もちろん、これは直接スタートアップで働くだけでなく、例えば試作サービスやファンド側といったスタートアップを支援するためのプラットフォーム側で働くこともありえるだろう。また、次代の人材の育成として、ものづくり教育などの場への貢献も重要だ。

 ただし、大前提として、大企業としてのものづくりとスタートアップとしてのものづくりは同一ではない。その事業開発のスピード感や求められる品質基準などは大きく異なる。大企業での経験を前面に出すのではなく、スタートアップの観点に立って自身の経験を共有していくという姿勢が必要となるだろう。