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 これまでの社会通念では、年長者が現役世代の若年者を指導するという、一定の上下関係が当たり前のように存在する。しかし、変化が大きな分野では、それは必ずしも正しい関係ではないかもしれない。例えば、技術革新や市場の変化が著しい分野では、若年者の知見やスキルが、年長者よりもずっと優れているケースが多々ある。現在で言えば、自動車産業の電気・電子制御やネットサービスなどはその代表例ではないだろうか。そんな変化が激しい分野でも、シニアの知見やスキルが役立つ場面は確実にある。例えば、自動車の電気・電子制御でも信頼性の確保などの面で、ネットサービスの開発でも法規への準拠やエコシステムの整備などでは、経験豊富なシニアの意見に耳を傾けると円滑に仕事が進みそうだ。

 電子産業で技術畑のシニア人材を活用する意義と取るべき方法について議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、パーソル総合研究所の小林祐児氏である。同氏は、多くの人材活用事例から浮かび上がる現役世代とシニアが同じ職場で働く際の問題を明確化。さらに質問3の回答の中で、コロナ禍で広がったリモートワークで、世代間の相互理解が滞っている現状を指摘し、円滑な世代間交流を可能にする先進的取り組みなどを紹介している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
小林 祐児(こばやし ゆうじ)
パーソル総合研究所 上席主任研究員
小林 祐児(こばやし ゆうじ) NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所に入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は理論社会学・社会調査論・人的資源管理論。
【質問1】いま、電子産業出身のシニア人材の活躍に対する期待が、特に高まっている産業・業種はどこだと思われますか?
【回答】地方/都市、大手/中小という流動性落差をまたぐことが有益

 シニア技術者は、企業の中で「不活性化」の課題とみなされる傾向がある。なぜ、このように課題視されてしまうのかというと、組織貢献に比べて処遇が高過ぎるからだ。多くの企業では年功序列的な賃金カーブを採用しており、降格を含めた評価システムが機能しておらず、処遇を下げられない。結局、そういったシニアが社内に増えてくると邪魔者扱いされてしまい、早期退職募集などの新陳代謝施策がミドル・シニアをターゲットにして実施されることになる。とりわけ電子産業では、事業再編や統合などと共に、高度な技術を持っていてもその会社にとっては不要な人材になってしまうことが往々にしてある。

 一方、中小企業においては、このような構造は相対的に緩やかだ。安定した少数事業の企業も多く、賃金カーブもよりフラットである。日本企業は、大企業と中小企業の生産性の格差が大きく、人材流動には「大手企業の転職者はまた大手へ、中小出身者はまた中小へ」という偏りがある。地域的な偏りもあり、大企業は都市部に集まり、中小は郊外から地方に多く存在する。

 こうした市場全体の偏りを、働き手が個別にまたぐことで、スキル活用の道が見出しやすくなることを指摘したい。同じ電子産業であっても、同業種の中で都市から地方へ、大規模・中規模から小規模の企業へと目を向けることで、それまでの技術・スキルを生かせる場が見つかりやすくなるだろう。部品製造であれば、元請け/下請けという受発注関係をまたぐことも同様の意味を持つ。

 ただし、小規模へ、地方へ、と転身する場合には、報酬の上昇はなかなか期待できない。中高年転職において、やりがいと給与の両取りが難しい状況は変わらない。それでも私たちの研究では、そもそも単純な年収の高さは転職後の幸福度につながっていない。働くことの満足につながるのは成長や社会貢献といった前向きな意思であり、賃金の影響力は低いことが分かっている。

 現在では転職ではなくても、技術顧問やアドバイザリーとしての事業参画や、副業や業務委託・派遣としての就業契約など、働き方の多様化に合わせたさまざまなマッチングサービスが登場し、活況を呈している。テレワークも職種によっては可能になってきた。一度、発想を柔軟にすれば、エンジニアの技術を生かす道は、まだまだあると考える。