米中ハイテク覇権争いが顕在化し、さらには半導体不足によって自動車メーカーの操業に影響が表れ、2020年以降、日本の半導体産業を再興の必要性を訴える声が高まっている。そして、自民党には半導体戦略推進議員連盟なる集まりが生まれ、政府の取り組みを促すまでになった。ただし、聞こえてくるのは台湾積体電路製造(TSMC)など海外企業の誘致の話が中心で、日本企業の中のどこが中心となって半導体産業の再興に取り組むのか、プレーヤーの姿が全く見えない。そもそも、半導体チップを製造するエンジニアは、キオクシアなど一部企業を除いて、ほとんど育成していない状態だ。
電子産業で技術畑のシニア人材を活用する意義と採るべき方法について議論している今回のテクノ大喜利。今回の回答者は、服部コンサルティングインターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、実際にはさらに衰退に向かっているのではと思わせる各社の動きを挙げ、シニア人材の活用に関する状況を日本の半導体産業を肌感覚で知る立場で語った。そして、さらなる活躍を目指すシニアがすべきことや政府が支援すべきことなどを挙げた。
服部コンサルティングインターナショナル 代表

半導体産業の再興が声高に叫ばれているが、実際には日の丸半導体産業の凋落・衰退に歯止めがかからない。2020年には、パナソニックが北陸3工場を含め、半導体事業を丸ごと台湾企業に売却。さらに、旧三洋電機半導体部門傘下の半導体工場(新潟県小千谷市、現在米ON Semiconductor所有)も2020年から売りに出ている。そして東芝は、他国では成長著しいSoC事業から事実上の撤退を決め、2020年度末(2021年3月)までに当該事業従事者824名が人員整理された。
一方、ルネサスエレクトロニクスは、2021年3月末で滋賀工場(旧NEC)を閉鎖し、7月には山口工場(旧NEC)も1年以内に閉鎖すると発表したばかりである。前身であるルネサステクノロジーがNECのシステムLSI事業を統合して同社が設立されて以来、20を超えていた半導体工場は1桁にまで減少し、製造部門を中心に3万人もリストラされてきている。
日本では、長年にわたり半導体技術者が次々リストラされてきた。そして、現在進行形なのだ。もう半導体はこりごりと、他産業へ移ったり、リタイアする人々が相次ぐ。半導体企業だけではなく、かつてはドル箱だった家電などの電子機器が衰退の一途の電機企業のリストラも同様な状況であり、いつもリストラ業種ランキングのトップに挙げられてきた。
実力のある技術者は、半導体産業や家電産業が隆盛している近隣アジア各国の企業に転職したり、さらに先端研究志向のある実力者はベルギーimecや米IBMなどの先端研究機関で活躍したりしていることは、一流の国際会議の講演者リストや学会誌の略歴(Biography)欄から読み取れる。日本では、シニア世代の人材に、もう一肌脱いでもらいたいという期待が高まりつつあるなどというムードは、私の周辺では全く感じられない。
経済産業大臣の「戦略物資である半導体は国の命運を握る」とか自民党半導体戦略推進議員連盟会長の「半導体を制する者は世界を制する」という言葉がむなしく響く。梶山弘志経済産業大臣は「半導体の失われた30年の反省を踏まえて大きく政策転換を図る」と述べたが、何を反省したかというと、従来の自前主義を改めて、海外半導体工場誘致するのだという。どのように日の丸半導体産業を復権させるのか、人材をどのように確保するのか全く不明確で、まるで工場誘致が目的化しているようにしかみえない。
法律によって65歳までの雇用確保が義務化し、70歳までの就業確保が努力義務化したとはいえ、企業は、法律違反で罰せられたり、行政指導を受けぬように、最低の賃金や待遇の制度を設けて、退職を促しても辞めない者を嫌々継続雇用しているとしかみえない。
著者が勤務していた電機メーカーでは、シニア社員を多数リストラしたご褒美に自分だけ役員定年を延長してもらってOBからひんしゅくを買った副社長がいた。目先の利益しか見ない兜町(かぶとちょう)がリストラによる人員削減を歓迎して株価は上がった。しかし、業績は低迷し、人材を補強し業績が回復するまでには10年を要した。