全3280文字
PR

 「中国製造2025」の一丁目一番地とも言える中国の半導体産業の成長路線――。中国では、2025年までに半導体自給率を70%にまで高めることを目指して、官民を挙げて継続的に大型投資をしてきた。ところが、ここにきて、無謀な巨額投資のツケと米中ハイテク覇権争いの影響が、はた目には、一気に顕在化してきている印象がある。2021年2月には、武漢弘芯(HSMC)が14nmおよび7nm世代に対応する巨大工場の建設を目指していた「武漢弘芯プロジェクト」が頓挫。そして、2021年7月9日には、中国の半導体産業振興のメインエンジンと言えた清華紫光集団に対して、債権人が裁判所に、破産による再編手続きを進めるよう申請した。

 なかでも、紫光集団の破産・再編の行方は注目に値する。同社は、清華大学が51%出資する半国有企業であり、中国の半導体完全国産化計画をけん引する役割を担う企業だからだ。傘下には、NAND型フラッシュメモリーを手掛けるYMTC(長江存儲科技)をはじめとして、数多くの半導体関連の有力企業を擁している。さらに、過去には米Micron Technology(マイクロン・テクノロジー)やキオクシア(旧東芝メモリ)の買収提案など、派手なM&Aを仕掛けたり、台湾TSMC(台湾積体電路製造)、台湾MediaTek(メディアテック)、米Western Digital(ウエスタンデジタル)、ルネサスエレクトロニクスなどの株式の大量購入を試みたりするなど、隙あらば世界の有力企業への影響力を強める動きをしてきた。

 世界の半導体業界の今後を考えるうえで、中国の動きを無視することはできない。ただし、中国は日本などとは政治体制や社会構造が異なるため、思ってもみなかった展開が起きる可能性もある。そこで今回は、紫光集団の今後と中国の半導体産業の行方について議論した。最初の回答者はGrossbergの大山 聡氏である。同氏は、紫光集団の破産・再編が中国の半導体産業の育成に与える影響は極めて軽微とみる。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマン・ブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】破産・再編によって、紫光集団の役割や存在感はどのように変化すると思われますか?
【回答】基本的に変わらない

 紫光集団の代表である趙偉国氏は、かなり無謀な投融資を繰り返したことで、中国共産党幹部からにらまれていたようだ。本来ならトップを交代させたいところだが、趙氏はバックにかなり強い人脈を持っているらしく、それもままならないといわれている。

 今回の破産・再編は、債権者(銀行)が裁判所に破産手続きを進めるよう申請する、という資本主義国では通常の処理を行うことで、趙氏の責任を明確な形で示す手法が取られたと見るべきだろう。そして、今後、趙氏は動きをある程度制限されるとみられる。ただし、中国政府にとって、紫光集団のような国営ファンドの投資先は、国家プロジェクト推進のためには必要である。このため、そのまま継続されることになりそうだ。

 紫光集団の傘下には半導体メーカーやシステムベンダーがたくさんある。しかし、中国政府としては、たとえ紫光集団が破綻しても、それらの企業に今まで通り事業を継続させることを最優先に措置を取るだろう。必要ならば、紫光集団の経営陣を刷新するか、あるいはこれに代わる別の金融機関に半導体産業の推進役を担わせるか、様々な選択肢が考えられる。

 筆者としては、「レッドカード(趙氏の退任)が出るかな」と思っていたが、今回はイエローカードで済んだようだ。

 日欧米の資本主義国であれば、破綻した金融機関が国家プロジェクトの中枢を担い続けるなど、常識的には考えられないことだ。ところが中国には、中国固有の考え方や方針が存在している。国家プロジェクト推進のための金融機関が必要だから紫光集団にその役を担ってもらい、問題があれば中身や組織そのものを入れ替えてでも仕組みを維持する、ということだろう。今回の例で言えば、我々から見れば紫光集団の破綻は非常に大きなニュースだが、中国にとってはイエローカード1枚程度の警告で、そのままプレーは続行される。基本は何も変わらない。

 善しあしはともかく、そういう違いがあるにすぎない、と考えるしかない。