全5880文字
PR

 半導体は、より微細なパターンが描かれたチップほど価値が高い。これは、一見常識であるように思える。微細なトランジスタほど高速動作が可能で、集積度も高いためより複雑な回路を集積可能になり、コストパフォーマンスも高まるからだ。しかし、付加価値や戦略的価値の高さという尺度で見れば、必ずしもより微細化が進んだチップほど価値が高いとは言い切れない。これは、現在、自動車メーカー各社が調達難で困っている車載用半導体チップの多くが、28nm、40nm、65nm世代の最先端とは言えないコモディティーロジックであることからも分かる。

 清華紫光集団の破産・再編から中国の半導体産業の行方について議論している今回のテクノ大喜利。今回の回答者は立命館アジア太平洋大学の中田行彦氏である。同⽒は、紫光集団は破産するリスクが高いが、中国の半導体産業が抜け⽳を突くことで育成には影響しないとみている。そして、米中対立による最先端技術の禁輸措置も、同様に回避する方法があるとする。その例証として日本の液晶業界が経験した苦い失敗を挙げた。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
中⽥ 行彦(なかた ゆきひこ)
⽴命館アジア太平洋⼤学 名誉教授
中⽥ 行彦(なかた ゆきひこ) 神戸大学大学院卒業後、シャープに入社。以降、33年間勤務。液晶の研究開発に約12年、太陽電池の研究開発に約18年、その間、3年間、米国のシャープアメリカ研究所など米国国勤務。2004年から立命館アジア太平洋大学の教授として、技術経営を教育・研究。2009年10月から2010年3月まで、米国スタンフォード大学客員教授。2015年7月から2018年6月まで、日本MOT学会企画委員長。2017年から立命館アジア太平洋大学 名誉教授・客員教授。2020年から名古屋商科大学非常勤講師。京都在住。
【質問1】破産・再編によって、紫光集団の役割や存在感はどのように変化すると思われますか?
【回答】紫光集団は破産の確信犯。最悪、見せしめとして操業停止へ

 紫光集団は破産の確信犯だ。

 紫光集団は、2020年末までに4度の社債の債務不履行を起こしている。にもかかわらず、傘下企業は操業を続けることができている。つまり、債務不履行を起こしても操業を継続できることを、身をもって体験してきたのだ。債務不履行後に適切な対処をすれば、改善方向に持っていけたはず。しかし、破産に至ったのは、紫光集団にとって破産は想定内だったからではないかと思える。

 関係者は「半導体は中国政府の重点事業だ。紫光集団は裁判所主導で再編されるが、傘下企業への影響は限定的になる」との見方を示した 参考記事1 。この見方こそが、破産を想定していた確信犯の楽観的な考え方を代弁しているといえよう。しかし、この楽観的予測が当たるものなのだろうか。

 そもそも紫光集団とはどのような組織なのか(図1)。

図1 紫光集団の組織と趙董事長のリーダーシップ
[画像のクリックで拡大表示]
図1 紫光集団の組織と趙董事長のリーダーシップ
出典:筆者が作成

 紫光集団の前身は、1988年に創設された。2009年に大幅な増資と再編が行われ、株式の51%を清華大学傘下の清華ホールディングスが、49%を民間企業であるBeijing Jiankun Investment(北京健坤投資集団)が保有した。この健坤投資集団の創業者の趙偉国氏が2009年から紫光集団の董事長に就いた。趙氏は、清華大学で電子工学の修士号を取得した後、紫光集団の副総経理などを歴任。2004年に独立して健坤投資集団を設立し董事長となった。そして、不動産投資で獲得した資金を元手に、紫光集団の株式を取得したのだった。

 その後、2013年から半導体分野に参入し、中国の半導体戦略に深く関わってきた。2015年に中国政府が「中国製造2025」を発表し、紫光集団は中国の半導体完全国産化計画をけん引する役割を担ってきた。このため2015年以降、紫光集団は、中国政府をバックにした資金力で、世界の有力企業である米Micron Technology(マイクロン・テクノロジー)やキオクシア(旧東芝メモリ)の買収などに意欲的であった。ところが、中国の台頭を懸念する各国の判断で、ほとんどの案件が頓挫した。

 紫光集団は、投資先を海外から国内へと変更し、武漢、南京、成都、重慶でフラッシュメモリーやDRAMの工場の建設に取り組んできた。フラッシュメモリーのYMTC(長江存儲科技)、先端DRAMのXi'an Unigroup Guoxin Semiconductors(西安紫光国芯半導体)など、半導体関連の有力企業を数多く擁している。

 また、重慶市でのDRAM量産のため、日本のエルピーダメモリ元社長の坂本幸雄氏を2019年に高級副総裁に招いた。坂本氏は、紫光集団の日本法人として、川崎市にDRAM設計拠点を立ち上げた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で人集めが1年程度遅れている。

 以上述べてきたように、紫光集団は、中国国内で多額の投資を行い、社債の債務不履行を繰り返して破産に至り、破産の“確信犯”となったと思われる。これには董事長の趙氏のリーダーシップが影響しているのではないか。まず、株式の49%を保有する健坤投資集団が董事長を出すのは通常はあり得ない。経営学の分野にリーダーシップ論がある。日本のリーダーシップ論で大きな功績をあげたのが、九州大学の三隅二不二(みすみ・じふじ)氏である。集団の目標達成や課題解決に関する機能の「P機能」、集団の維持を目的とする機能の「M機能」をXY軸にしてリーダーシップを4つに分ける「PM理論」を提唱した。趙氏のリーダーシップは、集団の維持をリスクに掛けても、集団の課題解決を最重要視する、「P機能」>「M機能」の典型的な「Pm型」リーダーシップと言える。

 また、破産しても操業できるのには、中国独特のカラクリがある。

 1つは、習近平国家主席の母校である清華大学が51%出資する準国営企業であること。2つ目は、国営企業や政府ファンドが複雑に入り組んだ資本構造にあること。3つ目は、「中国製造2025」の半導体国産化の中心企業であること。

 ただし、3つ目の半導体国産化の中心企業たり得るかとの評価に反論もある。例えば「紫光が中国政府にとって戦略的に重要だとみるのは過大評価だ」や「半導体を作っているが最先端ではなく、中国の抱える問題を解決できない」というものだ 参考記事2

 紫光集団は破産の確信犯である。ただし、過剰債務企業を整理する動きの中で紫光集団を見逃すと、過剰債務企業が増大し、中国が抱え込む債務問題が爆発しかねない。中国不動産大手の恒大集団の過剰債務が世界を揺さぶっている。これらの対策のため、中国政府が紫光集団を⾒せしめとして操業停⽌にするリスクがある、と筆者は考える。