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 ルネサスエレクトロニクスの直近の業績が、半導体産業の活況などを背景に上向いている。2021年第2四半期(4~6月)業績では、想定を上回る増収増益を達成し、さらに上期時点でのデザインインが、オートモーティブ事業では年間目標4000億円強の約8割、IoT・インフラ事業で同6000億円強に対する約5割と順調だという。

 同社の社長兼CEOの柴田英利氏は、直近の好調さの要因の一つとして、これまで推進してきたM&Aで得た製品・技術・人材の効果を挙げている。現在、同社は「Winning Combination」と呼ぶシステムのターンキーソリューションのラインアップの充実に注力。M&Aで得たリソースをフル活用し、「アナログ+パワー+組み込みプロセッシング+コネクティビティ」という組み合わせでのソリューションによって、様々な産業分野に向けたエッジ端末の短期開発を支援していくようだ。

 苛烈なリストラを経て積極的なM&Aを推進し、事業体制の再構築を図ってきた同社は、狙う市場・戦略が徐々に明確になってきたように見える。今回のテクノ大喜利では、半導体業界を取り巻くビジネス環境の変化を念頭に置いて、現時点でのルネサスの取り組みと明日への進路について評価・議論した。最初の回答者は、Grossbergの大山 聡氏である。同氏は、現時点での同社の状態を楽観していない。ただし、日本の半導体産業の再興には、同社の奮起が必要条件になるとしている。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】これまでにルネサスが実施したM&Aによって、世界の競合に勝つ事業体制が確立できたと思われますか?
【回答】思わない

 これまでルネサスは、米Intersil(インターシル)、米IDT、英Dialog Semiconductor(ダイアログ・セミコンダクター)を買収する大がかりなM&Aを実施してきた。しかし、外部から見ていて、納得できるM&AはDialogだけであり、IntersilおよびIDTに関してはいまだ納得できていない、というのが筆者の本音である。

 アナログIC分野を強化する目的でIntersilを買収した際には、他の2社と合わせて合計3社が買収候補に挙がっていた。だが、当時の時価総額で最も安価なIntersilが買収対象となったと聞いた時には、なぜそうなったのか、理由が分からなかった。「他の2社が高価だったので手が出なかったのだろう」などと考えていたら、今度はIDTの買収。つまり、M&Aにつぎ込む資金は十分にあったのだ。このあたりの評価については2018年10月の「テクノ大喜利」で詳しく述べているので、ここでは割愛する。当時、筆者が最も心配したのは、同社社員のモチベーションである。2件のM&Aについては、社内でも理解を得られていたとは言い難く、多くの社員が混乱していたようだ。

 極め付きは19年6月のCEO解任である。Intersilの買収発表は16年8月であり、買収完了は17年2月のことだった。IDTの買収発表は18年9月であり、買収完了は19年3月。これら2件の買収は、当時のCEOの呉 文精氏とCFOの柴田英利氏が中心となって進められていたが、買収完了直後の6月、同社の指名委員会が業績不振を理由にCEOの呉氏だけを解任。柴田氏を新CEOに選任した。過去の話を引っ張り出して恐縮だが、当時の同社は混乱を極めており、外から見てとてもポジティブに評価できる状態ではなかったのである。

 これに対してDialogの買収は納得できるものであり、ポジティブに評価できる。それでも、過去の2件に対するネガティブ評価を変更する理由は見当たらず、現時点でシナジーが発揮できているとも言い難い。同社が注力する車載・産業・インフラの領域で競合に勝つ事業体制が確立できたとは思えないのである。