半導体を自国生産する体制を整備する動きが世界中に広まっている。これは、半導体が、自国の産業競争力を維持・成長させていくために不可欠な、さらには安全保障上の観点からも安易に他国からの調達に依存することができない戦略物資とみなされるようになったからだ。半導体産業は、とかく最も進んだ微細加工技術を用いて製造される、SoCやメモリーなどの動向に目が向きがちだ。しかし、戦略物資といえるのは、こうした最先端チップだけではない。成熟したラインで製造するマイコンやアナログIC、そしてパワー半導体も同様である。どんなに先進的な電子機器でも、これらのチップがなければ作れない。
300mm時代に突入したパワー半導体ビジネスでの日本企業の現状と行方、および重電事業での競争力維持も念頭に置いた日本企業の勝ち筋を議論している今回のテクノ大喜利。2番目の回答者は、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの三ツ谷翔太氏である。同氏は、パワー半導体は、脱炭素化とデジタルトランスフォーメーション(DX)という2つのメガトレンドいずれにも関連した戦略物資であることを指摘。投資競争になりつつある世界の動きに早期対応するため、国内メーカーの戦略転換に向けた再考を訴えている。
アーサー・ディ・リトル・ジャパン パートナー

脱炭素化が加速する中で、パワー半導体を含む半導体産業は、ますます重要となる。社会的な脱炭素の実現に向けては幅広い打ち手が必要となるが、まずは電化が必要だ。具体的には、現状化石燃料ベースで駆動している動力を電化するとともに、再生可能エネルギーを推進していく。もちろん、それでも賄いきれないエネルギー需要を、水素を含めた新資源で担っていくことが必要となる。
結果的に、電力を供給・制御するパワー半導体を必要とする場面はますます増えていく。また、エネルギーの需給の両側を高度に一致させていくための計算機能としての半導体も重要となる(IoTを用いたエネルギーマネジメントとモビリティーマネジメントの連携など)。つまり、脱炭素時代において、半導体は社会のグリーン化×デジタル化を推進していくための変革の担い手でもある。
一方で、そのような大きな役割を担っていくためには、半導体だけではなく、社会システムのアーキテクチャーにもっと目を向けていくことが重要だ。エネルギーシステムはもちろん、その先の需要家側のシステムまで視野に入れたオープンイノベーションがますます重要となるだろう。