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 新潟県に電力制御用パワー半導体の共同工場を設置しようという計画が浮上している。2021年4月には、計画の主体となる法人、ジャパンスペシャリティファンダリが設立された。経済産業省が交付する「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を核にして、パワー半導体の国内メーカーから資金を募り、パワー半導体の大量生産によるスケールメリットを追求できる製造拠点を国内に置こうというものだ。工場の候補として挙がっているとされるのは米ON Semiconductor(オン・セミコンダクター)が2020年8月に売却を検討した新潟工場の200mmライン。だが、ゆくゆくは300mmラインを導入して、コスト競争力を高めていくとしている。

 300mm時代に突入したパワー半導体ビジネスでの日本企業の現状と行方、および重電事業での競争力維持も念頭に置いた日本企業の勝ち筋を議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、元 某ハイテクメーカーの半導体産業OB氏である。同氏は、パワー半導体だけでなく、脱炭素ビジネス自体の取り組みが鈍い国内企業の現状を指摘。このままでは、この分野で、一時はトップを走っていた日本が、取り残される可能性があると懸念している。そして、国内重電産業との協業のさらなる強化の重要性を訴えている。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
半導体産業OB(はんどうたいさんぎょうOB)
某社リサーチャー
半導体産業OB(はんどうたいさんぎょうOB) 半導体産業をはじめとする電子産業全般で豊富な知見を持つ某ハイテクメーカーのOB。某国公認会計士でもある。現在は某社でリサーチャーを務め、市場の動きをつぶさにウオッチしている。
【質問1】世界中で脱炭素化が加速しています。半導体産業が、もっと注力すべきモノやコトは何だと思われますか?
【回答】状況を把握して、腰を抜かすこと

 業界の潮目は劇的に変わった。腰を抜かすほどに……。日本のハイテク業界は、この状況を正しく把握しているのだろうか。

 まず、半導体業界の温暖化ガス削減への取り組みから、そのことについて説明したい。少し前までは、海外の半導体業界やハイテク業界の大手企業は、真面目に温暖化ガスの削減に取り組んではおらず、米国では環境保護団体から「環境詐欺」と非難されるような状態だった。具体的には石炭火力で発電した電力をじゃんじゃん使用して製品を作り、もうけた金でグリーン証書を買ってきて、堂々とカーボンニュートラルを宣言していた。また、二酸化炭素の数百倍の温室効果があるフッ素系温暖化ガスのPFC(パーフルオロカーボン)ガスは、薄めて排出すれば、いくら出してもOKだった。

 日本のハイテク業界は、こうした状況を冷ややかに横目で見つつ、自主的に環境負荷低減活動に取り組んでいた。ところが、状況は一気に変わってしまった。いつも通り、先行していたはずの日系企業が、環境対応で欧米企業に一瞬にして追い抜かれようとしている。

 今や、米Apple(アップル)や米Intel(インテル)は、真面目に温暖化ガス削減に取り組んでおり、納入業者に対しても、カーボンニュートラルを義務付けようとしている。再生可能エネルギーが火力発電による電力よりも安価な欧米では、事業活動で使用する電力をすべて再生可能エネルギーに変換しても懐は痛まない。対する日本企業は、一気に不利な立場に置かれてしまう。

 そして、もう1つは国家レベルでの世界的なカーボンニュートラルへの取り組み。かつて、京都議定書を骨抜きにした米中が、今や手のひらを返したように、カーボンニュートラルに真剣に取り組んでいる。この15年で、太陽光発電や風力発電のコストが劇的に低下し、再生可能エネルギーによる既存電源の置き換えが現実的なものとなったことが大きい。中国は2060年のカーボンニュートラル達成を目指すと宣言して、世界中の度肝を抜いた。欧米は、カーボンニュートラルの波の中で、新たに創出される関連機器やインフラ市場を取るべく、国家主導の多額の財政支援と政策支援によって、産業界をリードしている。

 またしても、日本だけが取り残されようとしている。民間企業は、せめて、この世界の潮流について、潮目が大きく変わってしまったことだけでも認識して、経営戦略を策定してほしい。