日本のパワー半導体ビジネスは、重電企業の部品内製業として立ち上げられた経緯がある。そして、今も、重電メーカーのいち部門として存在しているところが複数ある。そうした中に、今、パワー半導体事業の環境が大きく変化することになるところがある。会社を3分割することが決まった東芝である。
300mm時代に突入したパワー半導体ビジネスでの日本企業の現状と行方、および重電事業での競争力維持も念頭に置いた日本企業の勝ち筋を議論している今回のテクノ大喜利。4番目の回答者は、東京理科大学大学院の若林秀樹氏である。同氏は、東芝のパワー半導体ビジネスの環境変化を考察している。分割後の東芝のパワー半導体ビジネスは、成長に向けた戦略の選択肢が多いというのが同氏の見立てだ。
東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻(MOT) 教授

カーボンニュートラルに向けて、半導体産業が貢献できることは多い。電気エネルギーは、発電時、送変電時、消費時、それぞれでロスが多い。半導体、とりわけパワー半導体がロスの削減に貢献できる。
なかでも注目されているソーラーや風力などの再生可能エネルギーの分野では、電力品質、安定供給という課題を抱えている。この課題解決の鍵は、直流から交流に変換するパワーコンディショナーが握っており、さらなる変換効率の向上が損失改善に必要だ。
送変電では、変電所や送電線でも損失がある。超電導直流送電になればいいが、それも臨界温度に下げる冷却装置がいる(ヘリウムや窒素を使い、ポンプが必要なため、エネルギーを使う)。1990年代初めにはSMES(超電導エネルギー貯蔵)や超電導モーターも期待されたが、核融合炉と同様に蜃気楼(しんきろう)だ。
消費側では、エアコン、洗濯機、冷蔵庫など白物家電、エレベーターやエスカレーター、電車、EV(電気自動車)、ロボットなど産機向け、モーター制御、UPS(無停電電源装置)、家庭の蛍光灯、電子レンジもある。特にエアコンでは、インバーター化が省エネに貢献している。自動車では、モーターだけでなく、エアコン、その他、昇圧降圧もある。
今後、DXやデジタル日本列島改造で期待されるデータセンターは、電力消費の過半を占めるサーバーに加え、空調機や冷水ポンプでの消費も多い。サーバーでは、プロセッサーの微細化や配線材料変更、不揮発性RAMの利用、その他にも設計思想の転換も検討すべきだろう。空調機や冷水ポンプでは、パワー半導体の効率アップがある。また、配線を光電網にすることも重要である。
半導体やハードウエアの工場、物流も含めたサプライチェーン全体に対し、カーボンニュートラル基準を世界に先駆けてデファクトスタンダードとし、その基準に合わない製品は採用しないとする。日本企業は、そうした基準達成に向けて開発するのは得意だろう。日本の自動車メーカーは、1970年代に、大気汚染やオイルショックを機に制定されたマスキー法をクリアすることで、大きくシェアを伸ばした。今回も、自動車だけでなく、家電、産機、ITなど、カーボンニュートラル基準の多くの機器を開発することでシェア挽回の契機としたい。