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 強い重電事業を支え続ける差異化できる独自部品を生み出す事業に徹するか、それとも脱炭素化のメガトレンドに乗って省電力化の核となるデバイスの供給で覇権を握るのか。日本のパワー半導体メーカーは、どのようなビジョンを未来に描いているのか、いまひとつ分からない。投資や技術開発の戦略に、欧米の競合ほどの強い意志が見えないのだ。うかうかしていると、日本企業よりも産業を育成する意志を明確に持つ中国に、簡単に抜き去られる可能性もある。

 300mm時代に突入したパワー半導体ビジネスでの日本企業の現状と行方、および重電事業での競争力維持も念頭に置いた日本企業の勝ち筋を議論している今回のテクノ大喜利。今回の回答者は、服部コンサルティング インターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、カーボンニュートラル達成に向けて、半導体業界が貢献できるモノとコトを挙げ、それぞれを考察した。さらに、日本のパワー半導体メーカーが現在置かれている事業環境を明確に整理し、危機的な状況に置かれていることを指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
服部 毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
服部 毅(はっとり たけし) 大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学留学、同大学集積回路研究所客員研究員なども経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society(ECS)フェロー・終身名誉会員。マイナビニュースや日経クロステックなどに、グローバルな見地から半導体・ハイテク産業動向を随時執筆中。近著に『メガトレンド半導体2014-2023』(日経BP)、『2ケタ成長 光ファイバー・半導体』(毎日新聞出版)、『有機EL・半導体バブル』(毎日新聞出版eBOOK)、『半導体・MEMSのための超臨界流体』(コロナ社)がある(共に共著)。
【質問1】世界中で脱炭素化が加速しています。半導体産業が、もっと注力すべきモノやコトは何だと思われますか?
【回答】モノ:PPAC-E(Power削減-Performance向上-Area縮小-Cost低減-Environment配慮)同時実現の省エネ半導体デバイス。コト:半導体製造工程における環境負荷を最小化する操業

 2021年11月初めに英国で開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の首脳級会合での岸田文雄首相の演説を不満とした環境NGO(非政府組織)が、温暖化対策に後ろ向きの国に贈る不名誉な「化石賞」受賞国に再び日本を選んだ。ゼロエミッション車に関する宣言では23カ国と世界大手自動車メーカー6社が署名したが、日本および世界最大のトヨタ自動車はじめ日本企業は署名しなかった。世界にとって、脱炭素化は避けては通れない重大なテーマになってきており、すべての面で日本の対応遅れが顕著になってきている。半導体産業としては、どのようなモノやコトで、脱炭素化に貢献できるだろうか。

PPAC同時実現の半導体デバイス

 まずは、モノでの貢献について論じたい。PPAC-E(Power削減-Performance向上-Area縮小-Cost低減-Environment配慮)同時実現の半導体デバイスで、貢献できるのではないかと考える。

 脱炭素化を加速するうえで、半導体は重要な役割を果たす潜在能力を秘めている。以前、半導体は、「産業のコメ」とか「原油」とか呼ばれていた。しかし、いまや脱炭素化を目指す「システムの心臓」と呼べるのではないか。半導体技術の進歩により、半導体デバイスの消費電力の削減と性能向上が目覚ましく継続してきている。シリコン基板は、電気の塊といわれるほど結晶成長に電力を要する。しかし、微細化の進化で専有面積を縮小でき、1枚のウエハーからより多くのチップが産出できれば、エネルギー削減につながる。また、Mooreの法則に従って、トランジスタ当たりのコスト低減も実現する。これにより、半導体を搭載したシステムの消費電力を減らせ、性能を上げ、小型軽量にすることができる。Siよりもエネルギー効率の高いSiCやGaNの採用も急速に進もうとしている。

 著者は、2021年初めのテクノ大喜利 「2021年の注目トレンドは何か?」との問いに「脱炭素化の促進、その中核エンジンはやはり半導体」と既に答えている。

まずは半導体製造工程での環境負荷の最小化を目指せ

 次は、コトによる貢献について論じたい。半導体製造工程における環境負荷を最小化する操業で貢献すべきではないか。

 半導体製品のみならず、その製造においても、環境負荷が低くなるようなオペレーション(操業)が求められている。半導体ファブにおけるデバイスの製造工程で、エネルギー消費、原材料、消耗素材、化学薬品、超純水、(ドライエッチングガスなど)温暖化ガスが環境に与える影響は大きい。廃液や排ガスの処理にも莫大なエネルギーを必要としている。詳細なカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)分析を行い、半導体製造時の環境負荷を最小限まで低減することを目指さなければならない。

 独立系半導体研究機関であるベルギーimecが始めた新たな研究プログラム「SSTS(Sustainable Semiconductor Technologies and Systems:持続可能な半導体技術およびシステム)」には、製造委託側の米Apple(アップル)も参画した1)。半導体製造工程における環境負荷を最小化することは、脱炭素化を促進するために重要なテーマである。

■参考文献
1)服部毅、「Apple、imecの『持続可能な半導体技術・システム』研究協業プログラムに参画」、マイナビニュースTECH+、2021年11月1日