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 日本に限ったことではないが、どこの国の政府も解決すべき、取り組むべき課題が山積している。日本では、早急に大胆な打ち手が求められる分野として、カーボンニュートラル達成に向けたエネルギーミックス(エネルギー源の配分)の転換や半導体産業の再興などがある。それぞれを個別で見ると、取り組みが困難を極めるように見えるものばかりだ。

 しかし、課題を複合的に捉えると、案外、注力すべき解決策の糸口が明確になるかもしれない。パワー半導体は、脱炭素と半導体という、取り組むべき2つの課題いずれにも関連したテーマだ。ここで、目の覚めるような産業政策を打ち出すことができれば、世界に貢献するとともに、日本の産業競争力を高められるかもしれない。

 300mmウエハー時代に突入したパワー半導体ビジネスでの日本企業の現状と行方、および重電事業での競争力維持も念頭に置いた日本企業の勝ち筋を議論している今回のテクノ大喜利。今回の回答者は、立命館アジア太平洋大学の中田行彦氏である。同氏は、「COP26」(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で日本政府が打ち出した脱炭素に向けたエネルギーミックスの将来目標が、煮えきらず、実行可能性も薄いことを指摘。その上で、日本の産業の強みを生かせるパワー半導体に注力することで、脱炭素の潮流が日本が再浮上するためのチャンスとなることを指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
中⽥ ⾏彦(なかた ゆきひこ)
⽴命館アジア太平洋⼤学 名誉教授
中⽥ ⾏彦(なかた ゆきひこ) 神戸大学大学院卒業後、シャープに入社。以降、33年間勤務。液晶の研究開発に約12年、太陽電池の研究開発に約18年、その間、3年間、米国のシャープアメリカ研究所など米国勤務。2004年から立命館アジア太平洋大学の教授として、技術経営を教育・研究。2009年10月から2010年3月まで、米国スタンフォード大学客員教授。2015年7月から2018年6月まで、日本MOT学会企画委員長。2017年から立命館アジア太平洋大学 名誉教授・客員教授。2020年から名古屋商科大学非常勤講師。京都在住。
【質問1】世界中で脱炭素化が加速しています。半導体産業が、もっと注力すべきモノやコトは何だと思われますか?
【回答】日本はパワー半導体に注力し、脱炭素の勝者たれ

 英国で開かれていた国連の気候変動対策の会議「COP26」は、2021年11月14日に合意に達した。合意は「世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求することを決意する」とし、「パリ協定」より少し踏み込んだ格好になった。石炭火力発電については、採択直前の土壇場まで各国の激しい応酬を経て、最終的に「段階的な削減」で合意した。

 岸田文雄首相は、11月2日にCOP26に出席。2030年度の温暖化ガスの排出量を2013年度から46%削減するなどの日本の目標を説明した。しかし、「石炭火力発電」については言及しなかった。こうした環境政策が消極的だとみなされ、国際的な環境NGO(非政府組織)は日本を「化石賞」に選んだ。

 このCOP26の原案となった、電源構成の素案を表1に示しておく。

表1 第6次「エネルギー基本計画(素案)」における2030年電源構成
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表1 第6次「エネルギー基本計画(素案)」における2030年電源構成
出典:経済産業省など(2021)「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を基に筆者が作成

 再生可能エネルギーについては最大限導入し、目標を36~38%としている。原子力発電は、20~22%と前回案から据え置かれた。政府は、選挙や原子力施設の建設自治体へ配慮するなどの政治的理由で、改定を回避した。つまり不作為が問題を拡大させたといえよう。原子力は再稼働も難しく、新設は不可能に近い状態であり、「達成困難な」「野心的な」政策となってしまった。

 しかし、脱炭素は、パワー半導体にとって絶好のチャンスである。脱炭素に必要な、再生可能エネルギー、電気自動車、家電の省エネなどに、パワー半導体が不可欠だからだ(図1)。

図1 脱炭素に不可欠なパワー半導体
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図1 脱炭素に不可欠なパワー半導体
出典:筆者が作成

 再生可能エネルギーでは、太陽光発電の場合、発電された電気、蓄電池に蓄えられた電気は直流である。このため、使用するためには交流に変換する必要がある。この直流から交流への変換を、パワー半導体を用いたDC/ACコンバーターで行う。また、太陽光発電全体を効果的に稼働させるパワーコンディショナーにもパワー半導体が使われる。

 こうした電力変換をする際に電気エネルギーの損失があり、損失はパワー半導体の特性が影響する。変換効率は95%、高性能のもので97.5%となっている。ただし、蓄電池に蓄電する場合には、コンバーターを使って交流から直流へと変換する必要がある。さらに蓄電池に蓄えられた電気を使用する際、もう一度直流から交流に変換する必要がある。このように、幾度も電力変換されるため、特性のよいパワー半導体が必要になる。

 風力発電の場合、風車の回転により交流を発電するが、この交流を直流に変換してから、DC/ACコンバーターで安定的な交流にし、加えてパワーコンディショナーも用いる。太陽光発電と同様にパワー半導体が不可欠である。

 一方、運輸セクターで、脱炭素で急加速しているのが、EV(電気自動車)である。このEVでも、電気変換のパワー半導体が欠かせない。EVの駆動用のバッテリーは、リチウムイオン2次電池を直列に組み合わせて、300~400Vの高電圧になっている。高電圧の方が急速充電が可能であり、電力損失も小さい。この高電圧バッテリーから、コンバーターとインバーターを介してモーターを駆動している。これらに高性能のパワー半導体が必要である。

 家庭の電力消費の削減にも、パワー半導体が活躍している。その代表事例がエアコンである。エアコンでは、ヒートポンプ方式が一般的で、ヒートポンプ内に封入した冷媒を、液体から気体、気体から液体にすることで生じる温度変化を利用する。このときに用いる圧縮機の消費電力が約80%を占める。周波数変換するインバーターを用いて、空調の負荷に応じて圧縮機の回転数を変化させることで省エネ化できる。エアコン1台当たりの電気消費量は、1995年の約1500kWhから、2006年ごろには約850kWhと約57%削減できた。パワー半導体のおかげである。

 以上述べてきたように、脱炭素のための、再生可能エネルギー、EV、省エネに、パワー半導体は欠かせない。日本は、この絶好の機会に、パワー半導体に注力して、脱炭素の勝者になってほしいと期待している。