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【質問2】日本企業のパワー半導体ビジネスでの国際競争力の維持・強化に向けて、いま、どのような戦略・施策が必要だと思われますか?
【回答】日本は「すり合わせ」戦略で、パワー半導体の強化を

 ロジック半導体では、世界最大の半導体受託生産会社である台湾TSMCが、2021年11月9日にソニーグループと共同で熊本県に半導体の新工場を建設すると正式に発表した。日本政府は工場整備費の半額程度の支援を念頭に、やっと日本に誘致できた。それほど、日本は、ロジック半導体で負けている。

 しかし、パワー半導体では、日本は強い競争力を保持している。ロジック半導体で弱く、パワー半導体で強い、その差が生まれる原因はどこにあるのか。それを明らかにすることは、日本の半導体ビジネスの国際競争力を高めるのに重要だ。このため、パワー半導体とロジック半導体の比較を、表2に示す。

表2 パワー半導体とロジック半導体の比較
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表2 パワー半導体とロジック半導体の比較
出典:筆者が作成

 役割を人体の機能に例えて比較すると、ロジック半導体では、人体の脳の思考に相当するのがCPUであり、脳の記憶に相当するのがメモリー(DRAM、NAND型フラッシュメモリーなど)である。これに対して、パワー半導体は、電力の変換・制御の役割を担い、人体の心臓に相当すると言える。

 まず、ロジック半導体について、構造などを述べる。ロジック半導体のデバイス構造は、プレーナー構造のMOSFETであり、Siウエハーの表面に水平方向に回路が形成され、電流もウエハー表面を水平方向に流れる。ロジック半導体では、電流が表面を水平方向に流れるだけなので、Siウエハーとしては、安価にできることから、溶融シリコンに種結晶をつけて回転しながら引き上げて作成するCZ(チョクラルスキー)法による、CZウエハーが用いられる。

 この構造は微細化が容易であり、「スケーリング則」が提唱された。これはデバイスサイズおよび印加電圧などを同じ割合で相似的に縮小するという、分かりやすい設計指針である。また、チップ内のデバイス数は1年半で2倍になるという経験則「Mooreの法則」で競争されてきた。

 ビジネスアーキテクチャーの視点からは、半導体プロセスを分断する「モジュール化」により、国際分業が進んだと言える。つまり、TSMCがファウンドリーとして、大きな競争力をもってきた。TSMCは、常に微細化として5nm以下の最新プロセスを研究・開発するとともに、巨額投資を継続してきた。日本の半導体産業には困難であり、TSMCの新工場を熊本県に建設する方針で挽回を図っている。

 一方、日本が得意とするパワー半導体は、家電製品の電源回路などに利用されるMOSFETのパワー半導体ではなく、高耐圧のIGBTなどが中心である。こうしたデバイスでは、ロジック半導体とは、要求仕様が異なっている。

 IGBTなど高耐圧のパワー半導体は、大きな電流を流す必要があるため、横型だと表面積の大きなチップが必要になる。これに対して、縦型にするとチップ面積を小さくできるため、縦方向に電流を流す構造になっていった。このため、表面と裏面の両方に構造を作る必要から、両方を加工する技術も必要となった。また、オン抵抗を小さくするため、薄いウエハーの形成やウエハーの反りを抑える対策などが作りだされた。さらに、抵抗率の場所によるばらつきを抑えるため、FZ(フローティングゾーン)ウエハーの使用が主流である。FZ法は、棒状の多結晶シリコンの外周に設けたRFコイルによる誘導加熱で溶融し、RFコイルを移動させながら結晶成長させる。大口径化は難しいが、高純度となり抵抗率の場所による不ぞろいを抑えられるのだ。

 ロジック半導体ではON-OFFの違いを高速で伝送するが、IGBTなどの場合は、電流容量などの多様な厳しい顧客ニーズに応える必要がある。つまり、半導体プロセスを分断する「モジュール化」ではなく、顧客ニーズに応える企業間での「すり合わせ」が必要になる。

 以上に述べてきたことから、日本がパワー半導体では強い競争力を維持できている勝因は、日本が多様な厳しい顧客ニーズに応えてきたこと、つまり「すり合わせ能力」が高いことだと思う。パワー半導体は、材料であるFZウエハーや、パッケージの大電流構造、材料、放熱対策、構造がロジック半導体と異なっており、「すり合わせ能力」が要求される。日本の材料・装置メーカーが競争力を高めやすい。

 「すり合わせ」の結果として、製造技術のノウハウが蓄積されている。顧客ニーズに応えて、材料、前工程、後工程を含めてカスタム化したプロセス技術と、それを支える材料と装置メーカーにノウハウが蓄積されている。これらのノウハウは、材料と装置メーカーに広範囲で多岐にわたり、これが差異化要因となって参入障壁は高いと言える。

 日本は、企業間の「すり合わせ」によって、パワー半導体ビジネスの国際競争力を強化してほしい。