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【質問3】日本の重電系のビジネスの国際競争力を維持・強化するために、半導体業界で貢献できる支援は何だと思われますか?
【回答】「スパイラル戦略」と次世代材料で、日本重電の競争力強化を

 日本の重電系の国際競争力を強化するため、半導体業界は2つのアプローチで貢献できる。パワー半導体の「スパイラル戦略」と、次世代材料である。

 パワー半導体6位の東芝が、総合電機を断念して事業別に3分割する方針を2021年11月12日に発表した。東芝は、2015年以降、不正会計や米原子力子会社の巨額損失で経営危機に陥り、上場廃止を回避するため「物言う株主」から資金を得た。この「物言う株主」が短期に企業価値向上を求めたことが、この分割案の背後にあるという。

 企業の分割が企業価値を高める場合と、低下させる事例の両方が報告されている。米国の事例では、Hewlett-Packard(ヒューレット・パッカード)は2015年に2社に分割し、合計の時価総額を引き上げた。しかし、米DowDuPont(ダウ・デュポン)は2019年に3分割したが、合計の時価総額は減少した。

 東芝の場合、本当に企業価値を高められるのだろうか。この問いに答えるため、シャープの液晶の進化の事例をたどってみたい。

 シャープは、液晶電卓「EL805」を1973年に発売し、実質的に世界で初めて液晶製品を市場に出した。しかし、液晶は電卓には使えても、反応速度が遅くて動画を表示できなかった。それでも、事業部から液晶を商品に応用するために必要な要望仕様が出され、液晶の特性が改善されていった。例えば、ビデオカメラでは、動画とカラー表示の要望仕様が出され、それを満たす液晶が開発されたことで、1992年にビデオカメラ「液晶ビューカム」が販売された。液晶(デバイス)と最終商品(セット)の間で、有機的なフィードバックが起こり、これを繰り返していくと、正のスパイラルを描くように、より高付加価値の商品が生み出されてくる。シャープは、このデバイスとセットのスパイラル展開を、「スパイラル戦略」と呼んだ。

 日本のパワー半導体事業は、東芝と同様に、重電メーカーの部品内製業、つまり総合電機の一部門として経営されているところが多い。質問2の回答では企業間の「すり合わせ」について述べたが、総合電機の企業内での「すり合わせ」で、デバイスとセットのスパイラル展開、つまりパワー半導体の「スパイラル戦略」が、重電系の国際競争力を強化するのに貢献できると思う。逆説的に言えば、東芝の事業分割が企業価値を低下させる可能性があると危惧している。

 半導体業界が貢献できるもう1つのアプローチが、次世代材料である。パワー半導体では、シリコンの物理特性の限界に近づきつつある。例えば、高耐圧のパワー半導体では、オン抵抗を下げるためにウエハーを薄くしてきたが、これ以上薄くすると低い電圧をかけても壊れてしまう。このシリコンの限界を超えるため、次世代材料として、ワイドバンドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)が期待されている。耐圧を維持しつつ素子を薄くしてオン抵抗を小さくでき、電力損失を抑えられる。

 ドイツPorsche(ポルシェ)は、2020年に発売した新型EVで電池電圧を800Vに高めた。充電の電圧を2倍にすることで、大量の電池を搭載して航続距離を伸ばしても、充電時間を短縮できるのだ。この800V化は、米General Motors(ゼネラル・モーターズ)が追随を表明し、今後世界に広がる可能性がある。この800V化には次世代材料によるパワー半導体が必須となる。

 三菱電機は、2021年11月9日に、今後5年間でパワー半導体事業に1300億円を投資することを明らかにした。同社が高いシェアを持つ民生部門に注力するとともに、電気自動車ではSiC市場の拡大を見込み、取り組みを強化するという。これは、パワー半導体の「スパイラル戦略」と次世代材料のアプローチにより、重電系の国際競争力を強化する好事例である。

 以上述べてきたように、パワー半導体の「スパイラル戦略」と、次世代材料パワー半導体により、日本の重電系のビジネスの国際競争力を強化してほしい。