全2379文字
PR

 2020年から2021年にかけて、カーボンニュートラル達成に向けた世界の動きは、取り組みの本気度が急激に高まったように感じる。2021年「COP26」では、これまで努力目標だったいわゆる「セ氏1.5度目標」が、必達目標へと格上げされた。そして、各国の政策の内容にまで踏み込んで、温暖化ガス削減策の妥当性が議論されるようになった。もはや、「既存産業に不利益が及ぶので、急激な事業変革が迫られるような脱炭素化手法の導入は避けてほしい」といった抗弁が通じなくなってきている。そして、各企業の脱炭素に向けた取り組みも、社会貢献から、ビジネス競争力の強化を狙ったものへと変わってきている。

 2022年の電子業界、IT業界で注目したい潮流・技術・企業を、それぞれの分野・視座から産業界に関わっている有識者に挙げてもらうテクノ大喜利。今回の回答者は、先端知による持続可能な社会の実現に取り組んでいるX-Scientiaの古山通久氏である。同氏は、再生可能エネルギーの本格的な活用が求められている状況に鑑みて、蓄電池の活用と水素活用の早期社会実装が進む動きを注視している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
古山 通久(こやま みちひさ)
X-Scientia 代表取締役 / 信州大学 教授
古山 通久(こやま みちひさ) 文部科学省、復興庁、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、福岡市、化学工学会、電気学会などでエネルギー・環境に関連した各種委員を歴任。アカデミアにおいて、水素・燃料電池や蓄電池などの材料・デバイス・システムの観点から先端研究を実施すると共に、スタートアップの立場では環境・エネルギー分野における学術的先端知の社会実装に取り組む。2021年12月現在、マテリアルイノベーションつくば研究戦略企画部長、京都大学オープンイノベーション機構特定教授、広島大学先進理工系科学研究科客員教授を兼務。「Energy technology Roadmaps of Japan - Future Energy Systems based on Feasible Technologies beyond 2030(Springer社、2016)」を共同編集、「世界水素ビジネス 全体動向編(日経BP、2020)」では水素活用に関して分担執筆。
【質問1】2022年、注目したいビジネスや技術開発の潮流を挙げてください。
【回答】再生可能エネルギーの導入拡大に伴う需給調整・調整力

 2021年、米Tesla(テスラ)が、定置用蓄電池の国内販売を開始した。同社は、化石資源を中心とする社会から太陽光を中心とする社会への転換加速をビジョンとして掲げており、再生可能エネルギーの余剰電力を蓄電し、自家消費するための大規模蓄電池を市場に投入したのだ。日本国内で自家消費してメリットが得られる蓄電池価格は、7万円/kWh以下との試算が公表されている。ところが、国内メーカー各社の製品は多くが15万円/kWh以上の価格帯で、補助金があってもメリットが得られない。テスラの日本国内での販売価格は大規模用途で5万円/kWh以下とみられ、これまでの潮流を大きく変えるであろう。

 蓄電池の市場は、自家消費用に限定されない。電力の自由化の中で、需給調整市場の取引も2021年に開始された。需給調整市場ではさまざまな応動時間の調整力が取引される。同年4月に取引が始まったのは応動時間の最も遅い調整力であり、順次、より応動時間の速い調整力の市場へと拡大されていく予定である。蓄電システムには、長時間ゆっくりと充放電するのに向いているものもあれば、短時間に急速な充放電が可能なものもある。その種類は多様であり、活発な研究開発が期待される。コスト競争により淘汰される製品も数多く生まれてくるだろう。