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 長く続くデフレ状態と目立つ成長産業の不在から、気がついたら、日本の賃金水準は新興国にも抜かれる状態になってしまった。さらに、基幹産業である自動車も、鉄の結束を誇り、無駄を極限まで排除したサプライチェーンが、CASE(Connected、Autonomous、Shared&Services、Electric)トレンドに沿った変革を進める上での阻害要因になりかねない状況だ。先行きは決して明るいとは言えず、自信を失いかけている。一方で、少子高齢化への対応や世界からの同調圧力が高まる脱炭素化への適応など、取り組むべき課題が山積している。産業や社会の仕組みを根本的に作り変えるブレークスルーとなるコンセプトを打ち出し、そこに向けて日本全体が遮二無二に突き進まないと、ジリ貧になってしまうことは明らかだ。

 2022年の電子業界、IT業界で注目したい潮流・技術・企業を、それぞれの分野や視座から産業界に関わっている有識者に挙げてもらうテクノ大喜利。今回の回答者は、東京理科大学大学院 技術経営専攻(MOT)で、技術の分かる次世代の経営者を育成している若林秀樹氏である。同氏は、2022年に日本の企業や政府などが取り組むべきこととして、高齢化、過疎化、エネルギー問題など日本が抱える課題の解決法と経験自体を、次世代の輸出できるインフラ産業として創出、育成する「デジタル日本列島改造」というコンセプトを提案している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
若林 秀樹(わかばやし ひでき)
東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻(MOT) 教授
若林 秀樹(わかばやし ひでき) 昭和59年東京大学工学部精密機械工学科卒業。昭和61年東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻修了。同年 野村総合研究所入社、主任研究員。欧州系証券会社シニアアナリスト、JPモルガン証券で日本株部門を立ち上げ、マネージングディレクター株式調査部長、みずほ証券でもヘッドオブリサーチ・チーフアナリストを歴任。日本経済新聞などの人気アナリストランキングで電機部門1位5回など。平成17年に、日本株投資運用会社のヘッジファンドを共同設立、最高運用責任者、代表取締役、10年の運用者としての実績は年率9.4%、シャープレシオ0.9、ソルチノレシオ2.1。この間、東京理科大学大学院非常勤講師(平成19~21年)、一般社団法人旧半導体産業研究所諮問委員など。平成26年サークルクロスコーポレーション設立、代表取締役。平成29年より、ファウンダー非常勤役員。平成29年より、東京理科大学イノベーション研究科教授。平成30年より現職(MOT)。現在、経済産業省の半導体デジタル産業戦略検討会議のメンバー、JEITA 半導体部会 政策提言タスクフォース 座長を務める。著書に『経営重心』(幻冬舎)、『日本の電機産業はこうやって甦る』(洋泉社)、『日本の電機産業に未来はあるのか』(洋泉社)、『ヘッジファンドの真実』(洋泉社)など。
【質問1】2022年、注目したいビジネスや技術開発の潮流を挙げてください。
【回答】クルマを巡るインフラ整備、縦割りの一般解ではなく、総合特別解を

 2022年は田中角栄氏の「日本列島改造論」から50周年に当たる。1972年当時ベストセラーになるなど、多いに注目されたこの論は、自由民主党総裁選挙を前に同年6月に田中氏が発表した政策である(表1)。過度な都市集中や環境公害問題もある中で、「工業再配置と交通・情報通信の全国的ネットワークの形成をテコに人とカネとものの流れを巨大都市から地方に逆流、地方分散推進」を趣旨とする。実際、それに沿って新幹線や高速道路網が張り巡らされ、国のインフラが整備された。その後、このインフラは50年を経て老朽化する一方、都市集中は変わらず、地方は疲弊している。

表1 日本列島改造論とデジタル日本列島改造論の違い
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表1 日本列島改造論とデジタル日本列島改造論の違い
出典:筆者が作成

 そこで提案したいのが、「デジタル日本列島改造」である。田中氏の日本列島改造論の道路網や新幹線などの交通網ではなく、ITネットワークのインフラ整備であり、日本列島をDX(デジタルトランスフォーメーション)化する。コロナ禍を契機に、テレワークが進み、オフィスや住まいを地方へ移住する動きがあるが、これをサポートする取り組みである。地方でテレワーク、オンライン授業、遠隔診療をしようにも、電波が届かず、通信回線がキャパシティー不足ではどうしようもない。防災インフラを充実させ、橋や道路などの劣化の状態を感知するセンサーも不可欠だ。そのためにはデータセンターと基地局整備が必須になる。5G(第5世代移動通信システム)では電波が届きにくいため、100倍以上の基地局数と間をつなぐ光ファイバー網がいる。

 地方では、クルマが主要な移動手段である。高齢化が進むことを見据えれば、自動運転の導入は待ったなしの状況である。高齢者の事故を防ぐため、そして近距離移動中心だが高い頻度の利用に向けて、安価で乗り易い簡易な自動運転EVの需要が高まる。自動運転を普及させるためには、5G基地局、エッジ型も含めたデータセンター、電源ステーションなどのインフラ整備が重要になる。

 さらに、カーボンニュートラルの視点から解決しなければならない問題もある。データセンターや基地局は、もちろん電力を使うため、グリーンでクリーンなデータセンターの開発が不可欠だ。EVの普及には、多くの充電ステーションが必要となる。ただしこれも、利用が一斉であれば、電力不足となる。そこでは、地方ごとに最適な電源構成とスマートグリッドが求められるが、これは、光ファイバーと電力ケーブルをセットで整備する必要があるだろう。

 すなわち、2022年は、5G/6Gの無線技術、光電網技術、データセンターのサーバー機やメモリー技術、自動運転、EV、電池、スマートグリッドなどといった個々の技術ではなく、これらを総合し、さらに、各地方の特色、気候・風土、地形地理、人口動態や生活習慣、交通網、経済状況をデジタルツイン化して解析、共通部分はモジュール化したうえで、それぞれの地域に合わせて技術も経済も融合した特別解を提示することが必要になる。技術ごとの専門の縦割り、技術か経営か、政策か戦略か、官か民間といった縦割りでなく、それら全体を俯瞰(ふかん)し、特別解を出す能力が重要になる。

 つまり、これまでの「専門縦割りと一般解での計画」ではなく、「総合化と特別解による社会実装」が新たな潮流となる。