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 米Facebook(フェイスブック)は2021年10月28日、社名をMeta Platforms(メタ・プラットフォームズ)に変更した。将来の同社ビジネスの中心を、現在のソーシャルメディアから、仮想空間内で人やモノをつなげる「メタバース」へ移行していくことを、社名で体現することを狙ったものだ。この社名変更に関しては、昨今取り沙汰されてきた「安全より利益を優先する企業」というイメージを払拭することが狙いとする見方もある。しかし、今や世界経済に対して、国家を超えるかのような影響力を持つようになったGAFAの一角の社運を賭けた新ビジョンの行方を軽視すべきではない。

 2022年の電子業界、IT業界で注目したい潮流・技術・企業を、それぞれの分野・視座から産業界に関わっている有識者に挙げてもらうテクノ大喜利。今回の回答者は、半導体をはじめとする電子業界全体の動向をウオッチしている服部コンサルティングインターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、2022年に注目する潮流としてメタバースを挙げ、そこから巨大な波及効果が生まれる可能性を指摘している。この潮流が本物か偽物かが問題ではなく、本物にすることによって産業界が得られる利益が大きいというのが同氏の論の核心である。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
服部 毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
服部 毅(はっとり たけし) 大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学 留学、同大学 集積回路研究所客員研究員なども経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society(ECS)フェロー・終身名誉会員。マイナビニュースや日経クロステックなどに、グローバルな見地から半導体・ハイテク産業動向を随時執筆中。近著に『メガトレンド半導体2014-2023(日経BP)』『2ケタ成長 光ファイバー・半導体(毎日新聞出版)』『有機EL・半導体バブル(毎日新聞出版)』『半導体・MEMSのための超臨界流体』(コロナ社)がある(共に共著)。
【質問1】2022年、注目したいビジネスや技術開発の潮流を挙げてください。
【回答】メタバース

 「メタバース(Metaverse)」とは、インターネット上に構築された仮想3次元空間のことで、そこでは自分の分身であるアバターが自由に行動でき、互いに交流し、サービスやコンテンツを利用できるようになる。最近、世界的に「メタバース」の構築と活用がメガトレンドになろうとしている。フェイスブックはこの分野に注力するため、世界中の人々が慣れ親しんできた社名を、メタバースにちなんでメタ・プラットフォームズに変えた(質問3の回答参照)。

 同社は、VR(Virtual Reality)空間でミーティングができる「Horizon Workrooms」を電撃発表し、オープンベータ版の提供を開始している(図1)。米Microsoft(マイクロソフト)も「Teams」をメタバースへと拡張すると発表している。

図1 メタバースでアバターによる仮想会議
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図1 メタバースでアバターによる仮想会議
出典:Facebookプレスリリース添付図面、2021年8月

 コンシューマーやビジネス、産業など、各方面でのメタバース活用の可能性については多くの方々が既に未来像を思い巡らせている。そこで、ここではメタバースの今後の発展が先端半導体や周辺産業の成長をけん引する可能性について述べることにする。

メタバースは半導体の市場拡大のまたとないチャンス

 参加者のインターネット上でのリアルタイムの双方向通信や仮想シミュレーションなどを活用するメタバースは、既存のインターネットよりもさらに複雑な世界となる。このため、より高速で高性能なデータ処理、膨大なデータを転送・蓄積できるネットワーク環境、および表示能力が向上したAR(Augmented Reality)/VR機器(質問2の回答参照)などが必要となる。そうしたニーズが高速大容量半導体メモリー、HPC(高性能演算)チップ、その製造のための高度な先端半導体プロセスを必要とし、巨大データセンター、5Gテレコミュニケーション、および先進ディスプレー技術の開発を推進することになる。先端産業全体が底上げされる可能性がある。

 半導体メモリーとしては、大量データの高速な書き込みと読み出しが可能な大容量SSD(Solid State Drive)が不可欠となる。高速DRAMも大量に要求される。メタバースによる多くのデータを蓄積、処理するため、巨大データセンターでは、ストレージのパフォーマンスを一層向上させる必要があるからだ。半導体プロセス技術としては、AI(人工知能)と演算能力の向上ニーズや、グラフィックのレンダリング処理に対する需要が高まる。その実現のためには、より高度な超微細プロセス技術を早急に実用化する必要がある。より高性能なCPUとGPUの登場により、パフォーマンスの向上、消費電力の削減、チップの小型化といった恩恵を得ることができるようになる。

 ネットワーキングとテレコミュニケーションとしては、よりデータ送信の帯域幅を拡大するとともに遅延を少なくする必要がある。5G通信は、広帯域幅、低遅延、およびより多くのデバイス接続数をサポートしているため、この需要を満たすことができる。5G関連技術の実用化に拍車をかけることになろう。屋内無線接続の範囲拡大に向けたWi-Fi 6との組み合わせにより、メタバースが、ネットワークサービス開発の主要な推進力になるだろう。メタバースが、5Gスマートフォンの普及を促進する可能性もある。

 ディスプレー技術に対しては、AR/VRの高性能化がより高い解像度と120Hzを超えるリフレッシュレートを求めることとなる。特に、ディスプレーの画素の物理的寸法が縮小するにつれ、マイクロLEDおよびマイクロOLED技術の採用とともにフレキシブルディスプレーの出番がやってくる可能性が出てきた。

 以上述べたように、メタバースには、先端半導体、ディスプレー、ICT(情報通信技術)、5Gスマートフォンはじめ広範なハイテク産業全体を底上げする潜在力がある。メタだけではなく、米Apple(アップル)、米Alphabet(アルファベット)、マイクロソフトはじめ先進ICT企業の今後のビジネス・産業向けメタバース戦略やコンシューマー・ビデオゲームのプラットフォーマーのメタバース戦略が特に注目される。