2020年に本格的な商用サービスが始まった第5世代移動通信システム(5G)だが、その効果を体感できているスマートフォンユーザーはどのくらいいるだろうか。筆者は、いまだにLTEユーザーであり5Gを使っていないが、不便を感じたことはまったくない。また、知人の5G対応スマホを使わせてもらったこともあるが、確かに速くはなっているようだが、現状のLTEでも動画のストリーミング再生ができているわけで、正直、うらやましくは感じなかった。
もちろん、これは既存のスマホを使った場合の感想であって、5Gでなければ実現しないIoTシステムの構築や工場の装置の遠隔操作などを実感すれば、違った印象になるのだろう。しかし、現状では、新応用を切り開くために欠かせない超高速・超低遅延・多数同時接続といったフルスペックの5Gは実現していない。
2022年の電子業界、IT業界で注目したい潮流・技術・企業を、それぞれの分野や視座から産業界に関わっている有識者に挙げてもらうテクノ大喜利。今回の回答者は、省庁や企業を対象にした通信・放送セクターの経営戦略立案や事業開発に携わる企(くわだて)のクロサカタツヤ氏である。同氏は、2021年9月に発足したデジタル庁での取り組みは、諸外国に比べてデジタル化で立ち遅れた日本が21世紀に生き残っていくためのラストチャンスとなるとみている。同氏は、2022年に立ち上がるフルスペックの5Gの応用の広がりを、注目点として挙げている。
企 代表取締役

通信セクターの取り組みとして、クラウドネーティブの台頭に注目している。2021年7月に米AT&Tは、ネットワーククラウド関連の技術と知的財産を米Microsoft(マイクロソフト)に売却。これにより、AT&Tは同社の5GC(コアネットワーク)を中心とした5G関連ネットワークをマイクロソフトのクラウドサービス「Azure」に移行することになった。同時に、買収した側のマイクロソフトは、通信事業者向け製品「Azure for Operators」を拡充すると発表した。
コアネットワークのクラウド上での実装は以前から進められていた。特に、ローカル5Gのような小規模インフラにおいて、NECもAWS(Amazon Web Services)で実装可能な5GCソリューションを開発するなど、取り組みを活発化させていた。しかしAT&Tという、いわば「キャリアグレード総本山」の一角が、クラウドを前提にインフラを移行させるというのは、予想されていたとはいえ極めて大きなインパクトだった。
2022年は、こうした動きがさらに活発化するだろう。実際、米Google(グーグル)の「Google Cloud Platform(GCP)」も「Anthos for Telecom」注1)を提供しており、AWSもMEC(エッジコンピューティング)向けの「AWS Wavelength」注2)だけでなく、さまざまなソリューションを展開しようとしている。また、RAN(Radio Access Network)注3)のオープン化など、仮想化やソフトウエア化のトレンドは、通信インフラにも確実に波及しており、日本の通信事業者でもトップ・マネジメント・レベルでの検討が進んでいる。
こうした通信インフラにおけるクラウドネーティブ化の検討は、政府による制度設計も含め、2022年はさらに活発化することが見込まれる。そしてこのトレンドは、通信セクターを試金石に、他のさまざまな社会インフラで加速する可能性がある。
注2)AWS Wavelengthとは、超低遅延で広帯域幅の5Gネットワーク、AWSコンピューティングサービスおよびストレージサービスを組み合わせたAWSインフラストラクチャーサービス。
注3)携帯電話機などの端末とバックボーンを結ぶ無線通信ネットワーク。