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 誰も彼もがメタバースを語るようになってきた。電子業界には、IT業界ほど頻繁ではないが、実体が分かりにくいバズワード(流行語)が登場する。「マルチメディア」や「ユビキタス」などは、その代表例だ。「AI(人工知能)」や「IoT(インターネット・オブ・シングズ)」「Industry 4.0」「Society 5.0」なども同じ匂いがする言葉だ。そしていま、メタバースを、多くの人が語るようになっている。なかには、「いままで同じ話を『メタバース』と関連付けて話してはいなかったじゃないか」と突っ込みたくなるような例も多い。それらの多くは、予算がつきやすい、事業計画にゴーサインが出やすいといった、思慮の浅い、邪(よこしま)な理由で使っている例がほとんどだろう。

 複雑な状況を整理して、状況をモデル化し、答えを導き出すための代表的なアプローチに代数がある。答えが分かっていないものを仮に“X”と置いて状況をモデル化(定式化)し、数学的な手法を使って答えを求める方法だ。先に挙げたバズワードも、「X」のようなものなのだろう。ただし、予算の獲得やプロジェクトの実施が目的化され、目的が達成した後にも、Xが何であったのかうやむやのまま放置している例の何と多いことか。

 2022年の話題の一つになると思われるメタバースを論じ、市場の見通しを考える際の論点を、期待とリスクの両面からブレーンストーミングしているテクノ大喜利。今回の回答者は、Grossbergの大山 聡氏である。同氏は、メタバースに関連したビジネスを進める企業の将来性は、どれだけ具体的な応用のビジョンを語っているかで推し量ることができるとしている。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマン・ブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】メタバースのキラーアプリは何だと思われますか?
【回答】教育関連、エンターテインメントでの立ち上がりが普及のきっかけになりそう

 最初に、「メタバース」の定義について筆者の私見を申し上げておきたい。一般的には「オンライン上に構築された3D CGの仮想空間」などといわれるが、そもそもそれが何なのか、どんな価値や魅力があるのか、あまりピンとこない。メタバースを活用することで、スマートファクトリーにおける製造装置などの予知保全が可能になった、あるいは自動運転車開発時の安全性検証ができるようになった、などの事例はいくつかある。

 その一方で、「具体的にこれだ」という定義は存在しないと言うべきだろう。今後トレンドワードとして、多くの企業が、この言葉を引用・活用するケースが増えそうな気がする。ただし、これには注意が必要だ。

 かつて、日系半導体メーカーがDRAM事業から撤退する際、「これからの戦略商品はシステムLSI、ターゲットアプリケーションはユビキタス」というスローガンを数社が掲げていた。しかし、システムLSIとはどんな半導体か。ユビキタスとはどのようなアプリケーションなのか。具体的に説明できた企業は1社もなかった。別に隠していたわけではなく、具体的な戦略に落とし込めなかったのである。

 システムLSIもユビキタスも単なる概念であり、「具体的にこれだ」という対象を設定できなければ、事業としては成立しない。最近ではユビキタスという単語をあまり耳にしなくなったが、その理由を筆者は「スマホが登場したから」だと考えている。スマートフォンはユビキタスという概念を見事に具体化した商品であり、ユビキタスなどという実体のない単語を使う必要がなくなってしまった、ということだろう。

 そのスマホにシステムLSIを売り込めた日系半導体メーカーがいるかといえば、残念ながら1社も存在しない。誰も具体的な戦略を持っていなかったのだから、ある意味では必然的な結果であった。

 では改めて「メタバース」とは何なのか。どのような商品・サービスなら「なるほど、これがメタバースか」と納得できるようになるのか。日系企業としては、システムLSI、ユビキタスの時と同じような失敗を繰り返してはならない。まずはこの点を肝に銘じておくべきだろう。

 すでにゲームの世界では、メタバースを活用した商品もあるようだが、「実世界さながらの体験を実現できる」という点に着目すれば、ゲームを含むエンターテインメントはもとより、教育やトレーニングへの活用が有効と思われる。単なる座学だけではなく、限りなく実世界に近い体験ができるのであれば、実習や体験学習には極めて有効な手段になるだろう。さまざまな体験を通してメタバースの価値を実感できるユーザー数が増えれば、これらがキラーアプリとしての役目を果たせると考えられる。