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 2022年、注目のトレンドワードであるメタバースに、早くも先行きを懸念する声が聞かれるようになった。メタバースは、超国家的経済圏を生みかねないことから、それを危険視する各国政府が早々に規制に乗り出す可能性があるのではという見方がある。法律、プライバシーやセキュリティー、商習慣、文化など、さまざまな側面からの思ってもみなかったようなリスクが生まれる可能性も指摘され始めた。

 行動をしばるルールがない、いわば「放置空間」だからこそ描ける夢も多いことだろう。しかし、現実世界の企業が安心してビジネスを行うためには、明確なルールが行動の正当性を担保する「法治空間」が必要だ。法人である企業は、仮想空間だけで生存できるわけではないのだから。

 メタバース関連市場の見通しを考える際の論点を、期待とリスクの両面からブレーンストーミングしているテクノ大喜利。今回の回答者は、SAKURA法律事務所の道下剣志郎氏である。ITに精通する弁護士である同氏は、メタバース内で企業がビジネスを安心して展開するためには、法整備が急務となることを指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
道下 剣志郎(みちした けんしろう)
SAKURA法律事務所 弁護士
道下 剣志郎(みちした けんしろう) 一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。第一東京弁護士会所属。「バーチャルシティコンソーシアム」アドバイザリーボードメンバー。西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金融商品取引法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレートガバナンス、株主総会対応等、数多くの案件を取り扱う。また、複数のメディアからも取材を受け、年間多数の講演を行うなど、幅広い活動をしている。
【質問1】メタバースのキラーアプリは何だと思われますか?
【回答】コミュニケーションツールの要素を含んだものである可能性が高いのではないか

 GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の一角を担う米フェイスブック(Facebook)が、2021年10月28日付けで、社名を米メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)に変更したことは記憶に新しい。また、このメタのXR(VR、MR、AR)分野への投資額は、2021年単体で約100億米ドル(約1.1兆円)以上になることも、同社の2021年第3四半期の決算報告にて明らかにされた。

 メタの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、今後数年間で、さらに投資金額を増大させるとコメントしている。また、同氏は、今後10年間で、メタバースは世界中で約10億人に利用され、数1000億米ドル(数10兆円)規模のEC市場を生み出す可能性があるとも述べた。

 このように、2021年には、メタのニュースが大きく取り上げられ、同様にメタバースにも注目が集まったが、まだまだ一般に幅広くメタバースが認知され、利活用されているとは言い難い状況だろう。

 その一つの要因として、世界中の人々がメタバースを利用する端緒となるキラーアプリが、まだ存在しないことにある。

 インターネットが世界中に浸透した背景には、電子メールというキラーアプリの存在があった。また、SNSが人々の生活の一部となった背景には、Facebookというキラーアプリの存在があった。

 過去を振り返ると、社会を変革するような技術が世界に受け入れられるには、キラーアプリの存在は不可欠なように思える。そして、このキラーアプリは、いつの時代も、人間の根源的欲求である、他者とつながりたい、他者とコミュニケーションを取りたい、ということを満たすツールなのではないかと考える。

 そのため、メタバースにおけるキラーアプリも、他者とのコミュニケーションツールとしての要素を含んだものになる可能性は高いと考える。

 例えば、世界中の人々が同時接続できるブロックチェーンゲーム、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)ゲーム、クリプト(暗号)ゲームなどと呼ばれる領域が、ゲームプレーヤーの爆発的増加によって、メタバースにおけるキラーアプリになる可能性もあると考える。

 また、遠隔地にいながら、対面で同じ空間を共有しているかのような臨場感を味わえる技術の総称である「テレプレゼンス」なども、採用面接や研修などのビジネスシーンで一気に利用されるなどして、メタバースにおけるキラーアプリになる可能性がありそうだ。